佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

蕎麦打ち会

2018/10/14

ご近所さんが集まって蕎麦打ち会。

蕎麦を打つのは4回目。それも半年に一回程度しか打たないので、そば粉と水の分量やら、コネ方、伸ばし方などはYouTubeで勉強しながらです。

つまり下手な蕎麦打ちですがそれが楽しい。わいわいガヤガヤやりながら、持ち寄った惣菜を肴に酒を飲み、蕎麦を手繰る。仲間は皆、子供の頃から「ちゃん」付けで呼び合う仲。童心に返っての大人の遊びです。

酒は「信濃錦」。

 

 

『祇園白川 小堀商店 レシピ買います』(柏井壽・著/新潮文庫)

祇園白川 小堀商店 レシピ買います』(柏井壽・著/新潮文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

祇園の名店『和食ZEN』の奥にある秘密の扉。『小堀商店』の入り口だ。ZEN店長の淳、売れっ子の芸妓ふく梅、市役所勤務の伊達男木原の三人は、食通として名高い百貨店相談役、小堀善次郎の命を受け、とびきりのレシピを買い取るため、情報収集に努めている。そして今日も腕利きワケありの料理人が現れて――。京都と食を知り尽くす著者が描く、最高に美味しくてドラマチックなグルメ小説。

  

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 2018年10月1日発売の本書、発売後まもなく重版が決定した由、心からお慶び申し上げます。おいしい食べもの、京都、柏井壽先生と三拍子そろえば重版も驚くには当たらない当然の帰結でありましょう。競馬でいえばガチガチレース、株でいえば株価上昇力が強く底値も堅い連続増配株といったところ。一読者として、先生にはどんどん書いていただき、『鴨川食堂』とともに末永くシリーズとして楽しませていただくことをお願いいたします。

 さて本書は京都の老舗百貨店の会長を退き、今は相談役をしている小堀善次郎が美食を極めるために世の優れたレシピを買い集めるという話。料理人にとって、長年の修行と試行錯誤のうえで他にマネのできないところまで昇華させた料理のレシピは、己の神髄というべきもので、まさに己の骨、血、肉であり、場合によっては人生そのものといえるほどのものである。それを買いたいといわれても、おいそれと応じられるものではないだろう。一方、料理人には己の作品に対する自負があり、自分のレシピをいったいいくらで買ってくれるのかを知りたいという誘惑に駆られる気持ちもないとは言えない。それは自分が人生をかけてすべてを傾注した料理のレシピに高値がつくことによって、自分の仕事がけっして独りよがりなものではなく、客観的に確かに高い価値があったのだ確認したいという気持ちなのかも知れない。そうはいっても、やはり料理人にとって独自のレシピは大切なもの。そのレシピを売ろうとするにはやむにやまれぬ事情があり、ドラマがあるのだ。読者たる我々はそのドラマに胸を熱くし、そこに登場する人物の心根に心温まる思いを抱くのである。

 本書の魅力は物語としての面白さもさることながら、場面場面に登場する様々なおいしい食べものにある。おそらく柏井氏が食べ歩かれた実体験をベースに書かれており、それだけにそのおいしさが真に迫って伝わってくる。食欲が刺激されること甚だしく、また料理したい気持ちも大いに高まるのだ。現に私は今、自家製ウスターソースを作りたい思いに駆られ、 ツバメソースの青ラベル「オリソース」をネット通販で発注した。

 本書に収録された六話はそれぞれに味わい深いが、私が特に好きなのは第五話「オムライス」である。小学三年生の少女のお母さんを思う気持ちに目頭が熱くなった。それにオムライスとトンカツは私の大好物なのだ。物語の舞台となった『グリルたけやま』で木原とふく梅がオムライスを食べた後、トンカツも食べたくなって注文する場面があるが、その気持ちがよく分かる。おそらくこれも柏井氏の実体験かと思って笑ってしまった。とにかく近いうちに自家製ウスターソースを作る。そしてオムライスとトンカツを同時に食べるのだ。なんとささやかでつましい夢であることよ。

 

 

千年一 純米大吟醸

 本日の一献は「千年一 純米大吟醸」。

 淡路島に住んでいらっしゃるY.K.さんが贈ってくださった酒です。

 上品な吟香、ほどよい甘み、スゥッと切れる後味の良さ。中辛といったところか。味のふくらみも申し分なし。

 つまみに花錦戸のまつのはこんぶ。手にした文庫本は『祇園白川 小堀商店 レシピ買います』(柏井壽・著)。物語に登場する京のうまいもんを想像するのも極上のつまみです。あぁ、衣かつぎが食べたい。

 

 ほろ酔いの秋の夜長は本と酒

 

『蒲生邸事件』(みやべみゆき・著/文春文庫)

『蒲生邸事件』(みやべみゆき・著/文春文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

第18回(1997年)日本SF大賞受賞

【内容紹介】 一九九四年、予備校受験のために上京した受験生の尾崎孝史だったが、二月二十六日未明、宿泊している古いホテルで火災に見舞われた。間一髪、同宿の男に救われたものの、避難した先はなんと昭和十一年の東京。男は時間軸を自由に移動できる能力を持った時間旅行者だったのだ。雪降りしきる帝都では、いままさに二・二六事件が起きようとしていた――。大胆な着想で挑んだ著者会心日本SF大賞受賞長篇!『蒲生邸事件』の真の主人公は青年ではなく「歴史」である。歴史的事件の肌ざわりをたくみに示しながら、歴史とは何か、そして歴史を評価するとはどういうことかを、さりげなくこの小説は問うている。(関川夏央「解説」より)

 

蒲生邸事件 上 (文春文庫)

蒲生邸事件 上 (文春文庫)

 

 

蒲生邸事件 下 (文春文庫)

蒲生邸事件 下 (文春文庫)

 

 

 本書のことはY.I.さんから 教えていただいた。私の大好きな時間旅行もの小説だと。一も二もなく読みました。大長編ですから少々時間がかかりましたけれど。

 物語の途中まで主人公・孝史に共感できませんでした。今の若者に多いタイプで近代史に疎く、先の大戦について自分なりの評価していない。そんなことだから、学校の先生やマスコミ(特に新聞)報道を鵜呑みにして、戦前の日本=悪、戦後の日本=善(自由と人権が守られた正しい社会)といったステロタイプの考え(考えと言えるほどのものでもないが)を無邪気に信じ込んでいるのだ。最初、私はそれが宮部みゆきさんの認識なのだと誤解し、読むのをやめてしまおうかと思ったほどです。しかし話が進み、佳境にさしかかってくると様相は変わってきます。主人公が2.26事件があった昭和11年に暮らすことによって、いつの間にか成長し、しっかりとした大人になったからです。巻末の解説に関川夏央氏が宮部みゆきさんの「歴史」に対する態度を「過去を過去であるという理由で差別しない態度」と表現していらっしゃるが、宮部さんは今の世間一般の大方の態度が「戦前」を非進歩的な忌むべき過去として切って捨てがちであるのに対し、その過去をきちんと評価なさっていると見える。その態度は全否定ではなく、評価すべきものは評価し、肯定すべきものは肯定するというまっすぐな態度である。それはこの小説の一番重要な登場人物ともいえる”ふき”さんに、60年後の平和な日本にタイムトリップするチャンスを一顧だにせず、おそらく人が生きる上で最悪の時代であろう昭和初期にそのまま生きることを選ばせたことに現れていると思える。

 宮部さんはそんな孝史とふきに素敵な結末を用意した。それをここで語るわけにはいかない。それはけっして甘く幸せな結末ではなかったが、素敵な素敵な結末であったとだけ書いておこう。

 

 

はす屋

 『五郎八』を早々に辞去し、同じく木倉町は『はす屋』に入った。さほど大きな店ではない。カウンターに陣取りメニューを見る。「はす屋」の名前のとおり蓮根を使った料理が目を引く。地物の蓮根ですか?と尋ねると小坂で穫れたものだとのこと。昨夜訪れた居酒屋の女将さんからもこれからの金沢は蓮根がおすすめだと聞いた。特に小坂のものが良いとも。

 ならばと「蓮蒸し」を注文した。酒は「萬歳樂 純米吟醸 おんな川」。「蓮蒸し」はボリュームがあり、しかもうまかった。魚料理も充実している様子であったが、お腹が大きくなったので〆に「蓮根汁」を頼む。これまたうまい。居酒屋をはしごしたあと、〆にこれだけを食べに来るのもありだ。

 アタリでした。ここには、また来たい。

五郎八

 金沢の夜、居酒屋探索。今日は連休最終日ということで閉まっている店が多い。「鰯組」「わらべ」「新橋 こうや」と犀川沿いを訪ねたがすべて振られてしまった。木倉町「五郎八」が開いていた。

 酒は「加賀鳶 山廃純米吟醸ひやおろし原酒」、肴は秋刀魚の造り、蓮根かにあんかけ。けっして悪くないのだがすぐに店を出た。連休最終日に店を開けているところを褒めておきましょう。