佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

「ニッポン居酒屋放浪記 望郷篇」(太田和彦著・新潮文庫)を読了

ニッポン居酒屋放浪記 望郷篇 (新潮文庫)

ニッポン居酒屋放浪記 望郷篇 (新潮文庫)

  • 作者:太田 和彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2001/11
  • メディア: 文庫

 私が酒を飲むうえでの師と仰ぐ(勝手に我が師と仰いでいるだけで知り合いではない)太田和彦氏の居酒屋放浪記第3弾(完結編)である。本を手に取り開くと、おぉ!なんと言うことだ。最初のページにあこがれの居酒屋、神戸「森井本店」の写真がある。金文字の大扁額。「森井」の文字と「本店」の文字の間に(金盃)のこも樽の絵。白暖簾に「良心的な大衆酒場」の文字。佇まいからして『日本の正しい居酒屋』なのだ。作者が森井本店を心から愛し、震災に見舞われたこの店を本当に気遣っていた様子がしみじみと伝わってくる。本当に良い居酒屋はそれほど希少価値で、それを呑兵衛の我々が支えなければならない、応援しなければならないということだ。こうした居酒屋はその地域のかけがえのない財産なのだから。
 それにしても太田氏は羨ましい男だ。今回のラインナップは高松→那覇→仙台→熊本→壱岐→札幌→札幌→名古屋→博多→会津→神戸だ。「さすらう町の酒場の灯り、誰か故郷を想わざる」 今回も全国各地の旨いものを肴に各地の地酒を飲み、仕上げはバーでカクテルを飲むのである。その地で古くからあるバーはそれ自体がその地の歴史であり、酒飲みにとって「約束の地」なのである。バーのカウンターに席を占め「なにかお勧めのカクテルを」と云うとき、男は至福の瞬間をむかえるのである。
 もう一つ羨ましいことがある。巻末に椎名誠氏が「背中で酒をやる男」と題した文章を寄せているのである。なんと椎名氏と太田氏は酒飲み仲間なのだ。「東京の居酒屋だけでなくあちこちの地方都市、山の中や離れ小島など太田和彦とはずいぶんいろんな所を一緒に旅した。そこでは必ず酒を飲んだが、彼にはその土地ならではの飲み方、肴の吟味の仕方、酔眼方向への正しい歩み方などといったことを沢山教えてもらった。」と記している。太田氏を師と仰いでいるのである。
 私は椎名氏も心から敬愛している。彼の生き方を理想としている。氏が学生時代に木村晋介氏や沢野ひとし氏と共同で下宿生活を行っていた時代から、新橋でサラリーマン生活をしていた時代、そして作家として世界各地を歩き旅紀行を書く現在に至るまで、彼の周りには友人が集まり、友人の友人が集まり、その友人たちと「あやしい探検隊」と称して各地に出かけ、テントを張りたき火を囲みながらひたすら酒を飲む。そうした生き方を理想としている。なんと、太田氏はその世界にも関わっていたのだ。羨ましい限りである。