佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」[夢枕 獏(著)/ TOKUMA NOVELS]を読了

沙門空海唐の国にて鬼と宴す〈巻ノ1〉 (トクマ・ノベルズ)

沙門空海唐の国にて鬼と宴す〈巻ノ1〉 (トクマ・ノベルズ)

凄い。
天才だ。
夢枕氏によって描かれた「空海」も天才なら、書いた夢枕氏も天才だ。
完全にノックアウトされてしまった。
全4巻という長編小説ながら、少しも退屈させることなく一気に読ませる。
夢枕氏らしく読者を楽しませることを第一義としているものの、宇(空間)とは何か、宙(時間)とは何か、人とは何か、心とは何かを読者に問い、考えさせるあたりさすがである。

「般若心経」は、まず、この宇宙が何によって構成されているかを説く。それは、五蘊(ごうん)であると「般若心経」は言う。
色(しき)・受(じゅ)・想(そう)・行(ぎょう)・識(しき)、これが五蘊である。五蘊のうち色というのは、物質的な宇宙全てのもの、存在をいう。受、想、行、識、という四つのものは、いずれも人間の側 − この宇宙を眺める側に生ずる心の動きだ。つまり「般若心経」は
”存在というのは、その存在するものと、それを眺める心の動きがあってはじめて存在する”
と言っているのである。
そして、凄いのは、それらの全てが、実は”空”であると言い切っていることである。
 色即是空
 空即是色
何というダイナミズムか。

解りますか? 解ったような解らないような・・・・
考えれば考えるほど解らなくなるのです。
そのうえ「解るということはどういうことか?」なんてことを考え出す始末。
解らないことは解らないとして、読み進めるしかありません。
もう、次の展開がどうなるのかワクワクして読んでいるのですから。

物語はタイトルどおり「修行者空海が唐の国で鬼たちと宴会をする」ものです。西暦804年、密教を求め遣唐使として長安に入った若き留学僧・空海は、その才能を認められ、密教の第七祖である唐長安青龍寺の恵果和尚に師事し、わずか半年で「この世の一切を遍く照らす最上の者」を意味する遍照金剛(へんじょうこんごう)の灌頂名を与えられる。青龍寺一門には数千人に上る弟子がいるにもかかわらず、後から師事した、しかも倭国という外国から来た僧が密教の最高位に就く。そして日本に帰り密教を伝える。という、史実をベースにしながらも、そこに絶世の美女楊貴妃をめぐる愛憎と政争をフィクションとして交え、玄宗皇帝・白居易李白・高力士・阿倍仲麻呂空海橘逸勢ら歴史上の人物が時空を超えて繰り広げる一大歴史ロマンである。


我が子を道具に使っても晴らしたい恨みがある。
抗おうとしても抗いきれない運命がある。
伝えたくとも伝えられない想いがある。
叶えられなくとも想いつづける一途がある。
自分の思いよりも友を思いやる気持ちがある。
唯一無二の友に譲られたことを一生の無念とする心がある。
老いさらばえてなお、唯々、一緒にいたいと思う真実の愛がある。
それぞれの想いが交錯した慟哭の結末がある。
はたして、それぞれの魂に救いはあるのか?

 在天願作比翼鳥  天にあっては願わくは比翼の鳥となり
 在地願為連理枝  地にあっては願わくは連理の枝となりましょう
 天長地久有時盡  天地は悠久といえどもいつかは尽きることもある
 此恨緜緜無絶期  この悲しみは綿々と続いて絶える時はこない


♪本日の一曲♪
「涅槃」から連想して「ニルヴァーナ」 (Nirvana)にしようかとも思ったが小説のイメージに合わない。
イメージ的にはこちらが良いだろう。

王菲 (Faye Wong)が歌う 「天空」
美しい声だ。