ウェルズの日記

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「秘花」(瀬戸内寂聴:著/新潮社)を読む

私は僧侶が好きではない。
瀬戸内寂聴は尼僧である。
私は男色が嫌いである。
世阿弥は幼名「鬼夜叉」と名乗っていた12歳の時、将軍、足利義満に美貌を見初められ義満の寵愛を受ける。時の摂政関白、准后・二条良基のにも稚児としてかわいがられる。昔の風習とはいえおぞましい思いがする。
私は能がわからない。
高校の時、学校行事で狂言を観たことがあるだけである。

なのに縁あって「秘花」を手に取った。
存外に楽しめ、一気に読めた。
能に対する知識が無い私でも、物語として楽しめたし、観阿弥世阿弥のすごさがわかる。良書である。

秘花

秘花

能の大成者・世阿弥。たぐい稀な美貌から、時の将軍義満や学識芸能の一人者であった摂政、二条良基准后から稚児として寵愛をうけ、彼らの庇護の下、大衆芸能であった申楽を幽玄の芸にまで深化させ、頂点を極め、一世を風靡した日々。そんな彼の人生も義満や准后の死後、翳りが見え始め、他流派からの怨嗟、後継者である長男元雅の死でどん底に沈む。晩年には狂気の将軍義教から世阿弥は一方的に佐渡に遠島を申し渡される。72歳の時であった。それから81歳までの月日を佐渡で、どのような思いで逆境を受け止め、老いと向き合い、そして死を迎えたのか。本書は記録の少ない世阿弥の一生を瀬戸内女史ならではの感性で描いた小説である。

秘すれば花なり秘せずは花なるべからず

(本書からの引用)
 もしかしたら、この人こそ鬼ではないのか。
 そんな想いにとらわれていると、いつものとちがう声がかけられた。よく話される「花」のある声であった。花とは一口にいえば何なのでしょうと訊いた時に、
「色気だ。惚れさせる魅力だ」
 とお答えになった。「幽玄」とは、とつづけて問うと、
「洗練された心と、品のある色気」
 と答えられた。
 花と幽玄をたたえた声音で誘われて、断れる女がいるであろうか。わたくしは言われた通り、着ていたものをすべて脱ぎ捨て、素肌に柔かないい香のたきしめられた若草色の絹の着物をまとい、その人のそばにすり寄っていた。


小説では佐渡に流された世阿弥はそこで少年に恋をする。少年は沙江という女性の息子である。沙江は世阿弥の身の回りの世話をするが80歳近い世阿弥に色気を感じている。85歳の瀬戸内寂聴女史の描く世阿弥は官能的だ。

それにつけても横尾忠則氏の装幀が素晴らしい。
それだけでもこの本を手に取る値打ちがある。



♪本日の一曲♪"Time After Time" [Live]
アメリカ流の「幽玄」
シンディー・ローパーの世界は独特の美しさがあり味わい深い。サラ・マクラクランの声に癒されます。