佐々陽太朗の日記

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『ミミズクとオリーブ』(芦原すなお:著/創元推理文庫)

 芦原すなお氏のミステリー『ミミズクとオリーブ』を読みました。
これは良い本です。

ミミズクとオリーブ (創元推理文庫)

ミミズクとオリーブ (創元推理文庫)

ミステリのカテゴリーとしては安楽椅子探偵
相談を持ちかけてくる知人の刑事の話や夫の調査報告をもとに台所で料理をしながら謎解きをし、難事件を解決してしまう。
綺麗でおしとやかで、とびっきり料理が上手く、そのうえ賢い奥さん。
これ以上のものはない。
読んでいてすっかりこの奥さんに「ホ」の字です。
(小説に登場する女性にすぐ惚れてしまうのは私の悪い癖なのですが・・・・)

小説の一節を抜き書きしてみる。

 小さな庭の物干しの脇で、円錐に積み上げられた落ち葉のてっぺんからゆらゆらと煙が立ちのぼっている。洗濯物をとりいれていた妻がこちらを振り返って言った。
「もうすぐ焼けるわ」
「何がだい?」
「カンショ」
「何だって?」
「お芋さん。また原稿にいきづまっているんでしょう。うっちゃっといて早くいらっしゃい」
 ぼくはワープロの終了キーを押して机を離れた。

良い夫婦関係だ。この一節を読んだだけでこの二人の仲の良さが伝わってくる。この小説全般を通して、二人の仲睦まじさが描かれている。賢い奥さんが料理をしながら難事件を解決してしまう痛快さが本書の売りだが、温かい夫婦の情愛がこの本の魅力を増している。

この本のもう一つの魅力は奥さんの手料理だ。ある日の献立を上げてみると

  • 焼いたマテ貝の入った「分葱和え」
  • かぼちゃの「きんとん」
  • 讃岐名物の「醤油豆」
  • 焼いたカマスのすり身と味噌をこね合わせた「さつま」
  • 黒砂糖と醤油で煮付けた豆腐と揚げの煮物
  • 殻付きの小海老と拍子木に切った大根の煮しめ
  • 新じゃがと小ぶりの目板ガレイの唐揚げ

素晴らしいではないか。


出版社/著者からの内容紹介

美味しい郷土料理を給仕しながら、夫の友人が持ち込んだ問題を次々と解決してしまう新しい型の安楽椅子探偵――八王子の郊外に住む作家の奥さんが、その名探偵だ。優れた人間観察から生まれる名推理、それに勝るとも劣らない、美味しそうな手料理の数数。随所に語り口の見事さがうかがえる、直木賞受賞作家の筆の冴え。解説・加納朋子