佐々陽太朗の日記

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『反時代的毒虫』(車谷長吉:著/平凡社新書)を読む


『反時代的毒虫』(車谷長吉:著/平凡社新書)を読み終えた。

反時代的毒虫 (平凡社新書)

反時代的毒虫 (平凡社新書)

内容(「BOOK」データベースより)
私小説における「虚点」とは何か。命の通った言葉、通わない言葉とは何か。いかに女を描くか。創作と金をめぐる関係とは。小説とは、「虚実皮膜の間」に漾う人が人である謎を書くことである。異形の作家が私小説の真髄を語り尽くす。江藤淳白洲正子水上勉河野多恵子奥本大三郎中村うさぎ、高橋順子。反時代的毒虫と七人の「魂の対話」。

対談形式なので、車谷長吉氏の人となりがよくわかる。氏は白州正子さんとの対談の中で直木賞受賞に関して次のように語っている。

「いわゆる職業作家になりたいとか、なれるとかいうことは考えたことはないし、直木賞に決まったあともそうです。ぼくは自分の生き方として、素人が玄人に勝つというか、それを目指したいと思っている。それが僕の受賞に際しての決意表明なんです」

屈折してますね。なにせ「毒虫」ですから。ちなみに「毒虫」とは「私小説」のことだろうと思われます。毒をまき散らすような小説を書いて、プライバシーを含め他の人を傷つけてしまうような生き方を踏まえた言葉と捉えればよいのでしょうか。氏は『赤目四十八瀧心中未遂』を「人が人であることの悲しみを書きたい」と思って書いたと言っています。それを書くことが文学じゃないかとも言っています。たしかにそうかもしれません。しかし、私に言わせれば痛々しいほどの思い入れです。私など、普段は重苦しい小説など読まず、勧善懲悪もののハードボイルド小説を読んでスッキリしたり、ユーモア小説を読んでニンマリしている軽薄人間ですから、車谷氏のような人をみると「すみません」と謝らずにいられません。でも、たまに読んでみたいですね、「私小説」。ひょっとすれば車谷氏は由緒正しい私小説を書ける最後の人かもしれません。