佐々陽太朗の日記

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『明日を望んだ男』(ブライアン・フリーマントル/著 ★新潮文庫)を読む

 ブライアン・フリーマントルの旧作『明日を望んだ男』を読み終えました。

明日を望んだ男 (1980年) (新潮文庫)

明日を望んだ男 (1980年) (新潮文庫)

 文庫発刊が1980年11月25日だからもう28年前の本になる。古本屋で見つけました。フリーマントルの小説はチャーリー・マフィンシリーズを中心にほとんど読んでいるのですが、何故かこの本は歯抜けになっていて気になっていたものです。というのも、既読本を作者別に本棚に並べると、新潮文庫はこんな風になります。


消されかけた男 Charlie Muffin (1977)/チャーリー・マフィン[1979-04-26]
別れを告げに来た男 Goodbye to an Old Friend (1973) [1979-10-25]
★明日を望んだ男 The Man Who Wanted Tomorrow (1975)[1980-11-25]
再び消されかけた男 Clap Hands, Here Comes Charlie (1978)/チャーリー・マフィン[1981-10-25]
呼び出された男 The Inscrutable Charlie Muffin (1979) /チャーリー・マフィン [1982-11-25]
ディーケンの戦い Deaken's War (1982) [1984-04-25]
黄金(きん)をつくる男 The Midas Men (1981) [1985-07-25]
十一月の男 The November Man (1976) [1985-10-25]
罠にかけられた男 Charlie Muffin's Uncle Sam (1980) /チャーリー・マフィン [1986-02-25]
追いつめられた男 Madrigal for Charlie Muffin (1981) /チャーリー・マフィン [1986-05-25]
収容所から出された男 Face Me When You Walk Away (1974) [1987-01-25]
★最後に笑った男 Misfire (1980) [1987-07-25]上下
★空白の記録 Rules of Engagement (1984) [1988-02-25]
亡命者はモスクワをめざす Charlie Muffin and Russian Rose (1985) /チャーリー・マフィン [1988-09-25]
名門ホテル乗っ取り工作 Chairman of the Board (1982) [1989-04-05]
暗殺者を愛した女 Charlie Muffin San (1986) /チャーリー・マフィン[1989-04-05]
スパイよさらば The Solitary Man (???) [1989-11-25]
クレムリン・キス The Kremlin Kiss (1984) [1990-10-25]
第五の日に帰って行った男 The Fifth Day of Every Month (1986) [1991-01-25]
裏切り Betrayals (1989) [1991-07-25]
★終りなき復讐 The Bearpit (1988) [1992-07-25]
暗殺者オファレルの原則 O'Farrell's Law (1990)[1993-05-25]
狙撃 The Run Around (1988)/チャーリー・マフィン[1993-11-25]
十二の秘密指令 The Factory (1989) [1994-07-01]
おとり捜査 The Laundryman (1985)[1995-03-01]
嘘に抱かれた女 Little Grey Mice (1991) [1995-11-01]
報復 Charlie's Apprentice (1993) /チャーリー・マフィン [1998-02-01]上下
フリーマントルの恐怖劇場 The Ghost Stories (1993) [1998-08-01]
猟鬼 The Button Man (1992) [1998-10-01]
屍(しかばね)泥棒 The Mind Reader [1999-01-01]
流出 Charlie's Chance (1996) /チャーリー・マフィン[1999-09-01]上下
屍体配達人 The Profiler (1997) [2000-09-01]上下
英雄 No Time for Heroes (1994) [2001-01-01]上下
虐待者 The Predators (1998) [2001-04-01]上下
ユーロマフィア The Octopus-Europe in the Grip of Organized Crime (1995)[2001-06]
待たれていた男 Dead Men Living (2000) /チャーリー・マフィン[2002-02-01]上下
シャングリラ病原体 Ice Age (2002)[2003-03-01]上下
城壁に手をかけた男 Kings of Many Castles (2002) /チャーリー・マフィン[2004-05-01]上下
★爆魔 The Watchmen (2002) [2004-12-01]上下
シャーロック・ホームズの息子 The Holmes Inheritance (2004) [2005-10-01]上下

 最近発刊されたものは記載しておりませんが★印が未読本です。こうしてみると、抜けている本を買って読まなければという気になります。大げさに言えば画竜点睛を欠く訳です。というわけで、今回、「明日を望んだ男」を古本屋で見つけ読むことが出来たので★が一つとれました。


 さて、本書の中身ですが、次のようなものです。


 イスラエル政府が旧ナチ親衛隊組織殲滅をのため秘密裏にアルプスの湖底から引き上げた箱の一つが消え失せた。その箱にはナチ高官の経歴リストが入っているらしい。そのリストが公のものになれば、戦後の混乱に乗じ国外逃亡したナチ高官は戦時の悪行が暴かれナチ狩りの餌食になりかねない。リストをめぐりイスラエルとナチ残党の暗闘が始まる。


 ヨーロッパには戦時中ナチが略奪した財宝が湖の底に眠っているという噂が多数ある。実際にオーストリアの湖を調査した例もある。本書はそうした背景をもとに、常に昔を暴かれる不安を持ちながら身を隠しているナチ残党と復讐心を忘れないイスラエルユダヤ人が織りなす物語だ。両者の執念には興味を覚えるものの、残念ながら小説としてはあまり楽しめない。というのも、物語はリストがイスラエルに渡ることを怖れる旧ナチ高官を中心に展開していくが、当然のことながらこの男はヒーローにはなり得ない。その男に復讐の執念を燃やすユダヤ人にも感情移入しにくいのである。こうした小説の醍醐味はやはり読者が主人公に感情移入し、その主人公の活躍で危機を脱出したり、悪人をやっつけるところにある。それが出来ないこの小説には、私は楽しめなかったというのが正直なところです。