佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『世話焼き長屋』(池波 正太郎 , 宇江佐 真理 , 乙川 優三郎 , 北原 亜以子 , 村上 元三 /著 ★新潮文庫)を読む

世話焼き長屋 (新潮文庫―人情時代小説傑作選 (い-16-97)) (新潮文庫)
池波 正太郎 (著), 宇江佐 真理 (著), 乙川 優三郎 (著), 北原 亞以子 (著), 村上 元三 (著), 縄田 一男(選)を読み終えました。良いです。かなり良いです。選者・縄田一男氏のセンスが光ります。

五編の短編で構成されています。題名と作者を紹介します。
一、お千代:池波正太郎
二、浮かれ節:宇江佐真理
三、小田原鰹:乙川優三郎
四、証:北原亞以子
五、骨折り和助:村上元三

まず、登場人物のそれぞれが魅力的です。光ってます。
例えば、第二話の「浮かれ節」に登場する主人公三土路保胤の妻「るり」を紹介した一文。

るりは多分、貧乏がどういうものか知らずに三土路家に嫁いだのだろう。毎日の質素な食事からして実家にいた時とは大きな隔たりがあったはずだ。しかし、両親に可愛がられ、鷹揚に育ったるりは、むしろその貧乏を楽しむようなところがあった。娘が三人もできた今は、所帯やつれが僅かに感じられるものの、るりの気性は相変わらずだった。

素晴らしいではないですか。妻を娶るならばかくいう女性をと思うのは私だけでしょうか。さらに、この話に登場する保胤の娘が素晴らしい。父・保胤は小普請組という無役の武士で、端唄をたしなむ意外とりたてて取り柄が無く、娘にお屋敷奉公の話があっても十分な支度がしてやれない。娘ちひろはそうした父を軽蔑するどころか、心の底から理解している。じーんと胸に沁みます。

一番のお薦めは第四話、北原亞以子さんの作品「証」です。裏長屋に住む人々の厳しさの中にある人情が見事に描かれています。悲しくも美しい作品です。ハードボイルド好きの私にはたまらない逸品でした。北原さんの他の作品を無性に読みたくなりました。