佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『風の影/カルロス・ルイス・サフォン(著) , 木村裕美 (翻訳)』(集英社文庫)

風の影〈上〉 (集英社文庫)

風の影〈上〉 (集英社文庫)

風の影〈下〉 (集英社文庫)

風の影〈下〉 (集英社文庫)

 この週末はこの小説に釘付けでした。『風の影/カルロス・ルイス・サフォン(著) , 木村裕美 (翻訳)』(集英社文庫)、素晴らしい小説です。原題は"La Sombra del Viento" 2001年に発刊以来、17言語37カ国で出版され、世界中の本好きを虜にしているらしい。私も本好きを自認しているが、この本の導入部を読んだだけでもうサフォン氏の紡ぐ物語に絡みとられてしまった。
 物語は1945年の霧深いある朝、幼くして母を亡くした10歳の少年ダニエルが古書店を営む父に『忘れられた本の墓場』へ連れて行かれるところから始まる。そこを初めて訪れた者にはひとつの約束事がある。1冊の本を選び、その本が今後決してこの世から消え去らないように守り続けていくこと。ダニエルが選んだのは、『風の影』という1冊の本であった。
 このはじまりの部分だけで本好きの心は鷲づかみにされます。さらに『忘れられた本の墓場』に着いたときに父がダニエルにその場所について話すくだりが実に読ませます。ちょっと長くなりますが文章を引きます。

 「ここは神秘の場所なんだよ、ダニエル、聖域なんだ。おまえが見ている本の一冊一冊、一巻一巻に魂が宿っている。本を書いた人間の魂と、その本を読んで、その本と人生をともにしたり、それを夢みた人たちの魂だ。一冊の本が人の手から手にわたるたびに、そして誰かがページに目を走らせるたびに、その本の精神は育まれて、強くなっていくんだよ。何十年もまえに、おまえのおじいさんに、はじめてつれてきてもらったとき、この場所はもう古びていた。たぶん、このバルセロナとおなじくらいに歴史のある場所だ。いつからここにあるのか、誰がつくったのか、ほんとうに知っている人は誰もいない。おじいさんからきいたことをおまえにも教えてやろう。どこかの図書館が閉鎖されたり、どこかの本屋が店じまいしたり、一冊の本が世間から忘れられてしまうと、わたしたちみたいにこの場所を知っている人間、つまりここを守る人間には、その本が確実にここに来るとわかるんだ。もう誰の記憶にもない本、時の流れとともに失われた本が、この場所では永遠に生きている。それで、いつの日か新しい読者の手に、新たな精神に行きつくのを待っているんだよ。お父さんたちは店で本を売ったり買ったりしている。でもほんとうは、本には持ち主なんてないんだ。おまえがここで見ている本の一冊一冊はみんな、昔誰かの親友だった。でもいまここにある本を知っているのは、わたしたちしかいないんだよ、ダニエル。いま話した秘密を、おまえはちゃんと守れるかい?」


 登場人物にこんな風に語られたらもうこの本を読まずにいられないでしょう。さすがに仕事は休みませんでしたが、その他いろいろな用事はキャンセル。私の心は1945年のバルセロナを彷徨いました。そして『風の影』という運命の一冊を巡る物語に耽溺しました。
 この小説のすごさを語るのに美辞麗句は不要です。ストーリーの力だけでグイグイ読者を物語の世界に引っ張り込む力のある小説です。まさに小説の王道、この一言に尽きます。
 訳者、木村裕美さんによると、サフォン氏は『忘れられた本の墓場』をめぐる四部作の創作をめざしているとのこと。私にとってジョン・ダニングの古書にからむ推理小説・クリフォード・ジェーンウェイものと同様、大好きなシリーズになるのは間違いないでしょう。残りの三冊を早く読みたいものです。
 最後に、この小説の存在を私に教えて下さったcharlieさんに感謝申し上げます。ありがとうございました

死の蔵書 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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