佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『ジョーカー・ゲーム / 柳広司(著) 』(角川グループパブリッシング)


ジョーカー・ゲーム / 柳広司(著) 』(角川グループパブリッシング)を読みました。昨年の11月8日に放映されたNHKの番組「週間ブックレビュー」で文藝評論家の茶木則雄氏が推薦していた本です。出演者の書評を聴きぜひ読みたいと買い置いていたものをやっと読んだわけです。

ジョーカー・ゲーム

ジョーカー・ゲーム

本の帯(裏面)に記載された紹介文を引きます。

結城中佐の発案で陸軍内に設立されたスパイ養成学校“D機関”。「スパイとは“見えない存在”であること」「殺人及び自死は最悪の選択肢」。これが、結城が訓練生に叩き込んだ戒律だった。軍隊組織の信条を真っ向から否定する“D機関”の存在は、当然、猛反発を招いた。だが、頭脳明晰、実行力でも群を抜く「魔王」―結城中佐は、魔術師の如き手さばきで諜報戦の成果を挙げ、陸軍内の敵をも出し抜いてゆく。東京、横浜、上海、ロンドンで繰り広げられる最高にスタイリッシュなスパイ・ミステリー。

さらに表面の帯には伊坂幸太郎氏と雫井脩介氏のコメントが載っています。どちらも最高の讃辞です。
「冷酷で、贅肉がなく、鋭くて、気を抜いていると先入観が簡単にひっくり返される。この短編一つ一つがまさにスパイみたいで、こんなに格好よい短編ミステリー集を久々に読みました。−伊坂幸太郎−」
「冷徹に練り込まれた作品世界は、ロマンを排して、なお香り高い。まさに上質。−雫井脩介−」

この小説は5編の短編を通じてスパイという存在とは何かを浮き彫りにしている。スパイにとって何よりも大切なのは何事にも「とらわれないこと」そして「生き残ること」。結局のところ優れたスパイとは、己以外の全てを捨て去り、愛するものをも切り捨て、目の前にある現実のみを見つめ、絶対的現実主義者としてたった一人で平気で生きていける化け物のことである。"D機関"の中心人物結城中佐がこう語っている。「今日(こんにち)、陸軍の馬鹿どもは、そもそも自分たちの作戦や任務が失敗することを想定していない。奴らは"我々の任務に失敗はない。万が一そんなことになれば、その時は見事に死んでみせる"と胸を張って言う。−−−愚の骨頂だ。死ぬこと、それ自体は少しも難しいことではない。死ぬことなど誰にでも出来る。問題は、死んだからといって失敗の責任を負うことにはならないということだ・・・」

現実を正確に分析せず、精神論で突っ走ってしまう日本的信条に対する痛烈な皮肉だ。