佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『バスジャック/三崎亜記(著)』(集英社文庫)

バスジャック (集英社文庫)

バスジャック (集英社文庫)

 この題名を視て知らん顔ができない事情が私にはあります。本屋で視てしまいました。即、買いました。読みました。うーん、すごいです。よくもまあ、こんなこと考えますね。有り余る才能を感じます。ただ、小説としてはもう少し味わいと深みが欲しいか。えらそうなことを言うようですが・・・。まあ、短編集1冊を読んで評価するのも無茶ですね。デビュー作『となり町戦争』を読んでみないことにはなんとも言えません。『となり町戦争』は第17回小説すばる新人賞を受賞し、第18回三島由紀夫賞候補、第133回直木賞の候補作にもなったそうです。その後の作品2006年・「失われた町」、2008年・「鼓笛隊の襲来」も直木賞の候補になったとなればやはり本物なのでしょう。読んでみる必要がありそうです。

 さて、本作『バスジャック』ですが、多彩な技をみせてくれる全7編の短編集。全て「小説すばる」の2005年2月号から9月号の間に掲載された短・中編です。とにかく発想がユニークです。作品のユニークさのせいかどうかわかりませんが、私が読んだ感想は「なんとなく落ち着かない。」でした。特に最初の一編「二階扉をつけてください」は、物語全体を通じてなんともいえない居心地の悪さのようなものが全体をつつんでいます。結末でその居心地の悪さの正体がわかる仕組みになっているのですが、はっきり言ってこの結末はいただけません。私はこの最初の短編で三崎氏を好きになれないなと断定したものの、そこで読むのを止めたかというと、続く作品も読んでしまいました。好きになれないと解っていても、次を読ませるだけの不思議な力が三崎氏にはあるようです。



 表題になった『バスジャック』は独特のユーモアがある作品。この短編で三崎氏が描く世界は「なさそうでありそうな不思議な世界」である。あり得ないことなのだが、あるかもしれないと思わせるところが作者の力なのだろう。

 7編の中で秀逸なのは『送りの夏』です。この作品には正直、引き込まれました。これを読んで三崎氏の他の作品も読んでみようかと思いました。しかし、別の作品を読むかどうかは解りません。何故か私は三崎ワールドにある種の不気味さを感じてしまうのです。なんというのか、スゴイとは思うのですが、心が妙に冷えている、そんな感じです。