ウェルズの日記

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『神隠し / 藤沢周平(著)』(新潮文庫)を読む

失踪から三日、お内儀は不思議な色香をたたえ帰ってきた……

神隠し (新潮文庫)

神隠し (新潮文庫)


『神隠し / 藤沢周平(著)』(新潮文庫)を読みました。


裏表紙の紹介文を引きます。

伊沢屋の内儀お品が不意に姿を消した。三日後にひょっこり戻ってきたが、やつれながらも何故か凄艶さを漂わせている……。意表をつく仕掛けの表題作ほか、家出した孫の帰りを待ちわびる老婆を襲う皮肉な運命『夜の雷雨』、記憶を失った娘が子供のない夫婦にもたらしたひと時の幸福『小鶴』など、市井に生きる人々の感情の機微を、余情溢れる筆致で織り上げた名品全11編。

藤沢氏の短編集の中で評価の高い本のようだ。おそらくこの作品群において藤沢氏が人間の奥に潜むダークな心の襞を描こうとしていることを評価した故だろう。しかし、あえて言うが私の好きな藤沢作品ではない。本書の中で私の好きな藤沢作品に近いのは「桃の木の下で」と「小鶴」ぐらいなものか。全て面白く読んだのではあるが、他の作品は読んでいてなんとなく落ち着かないのである。たとえば『告白』。なかなか良い小説です。30年連れ添った妻の空白の一日がテーマ。女の怖さをうまく表現しているあたり、氏の実力を感じる作品です。

しかし、私が藤沢氏の小説を好きなのは、どうしようもない境遇や生まれながらの身分のために甘受せざるを得ない運命を哀れに描きながらも、誠実に誇り高く生きようとする主人公の一分を立ててやるところにあります。やりきれない状況のなかにも、そこに救いがあり、そうだからこそ生をポジティブに受け入れることが出来るのです。しかし、この作品群において藤沢氏は人の心の闇や女という生き物の怖さなどをあぶり出そうとしています。読んだ感想は何とも居心地が悪い。「ほろりと良かったという結末」よりも「深くどろどろした状況」のほうが、よりリアリティーがあることは承知したうえで、私は小説に「あぁ、よかった」という感動と救いを求めたい。「あほか、そんなにハッピーエンドが好きなら、ハーレクイン・ロマンスでも読んどれ!」と言われそうだが、悲惨なものをわざわざ小説で読みたいとは思わないのである。わざわざ小説で読ませていただかなくとも、現実社会や歴史は十分悲惨なのだから・・・