佐々陽太朗の日記

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『パンク侍、斬られて候 / 町田康(著)』(角川文庫)を読む


「いいなあ。いいなあ。それだよ。たいして現実も知らないでただイメージでクソだ、ゲロだって言ってる奴が死のその瞬間、激烈な痛苦と恐怖を味わったその瞬間こそが何十年分かのリアルが一瞬に煮つまっていくんだよ」

町田康氏の時代小説・・・? 『パンク侍、斬られて候』を読みました。

パンク侍、斬られて候 (角川文庫)

パンク侍、斬られて候 (角川文庫)

裏表紙の紹介文(あらすじ)を引きます。

江戸時代、ある晴天の日、街道沿いの茶店に腰かけていた浪人は、そこにいた、盲目の娘を連れた巡礼の老人を、抜く手も見せずに太刀を振りかざし、ずば、と切り捨てた。居合わせた藩士に理由を問われたその浪人・掛十之進は、かの老人が「腹ふり党」の一員であり、この土地に恐るべき災厄をもたらすに違いないから事前にそれを防止した、と言うのだった…。

いやぁ。すごい小説に出会ってしまいました。(驚天動地)  今まで自分が読んだ本の中で最高傑作といいたいくらい凄い本です。じゃあ、そのまま最高傑作と言えばいいじゃないといわれそうですが、それがそうもいきません。なぜなら、傑作とか最高とかいう言葉で表現することに抵抗がある、そうした範疇に当てはめてしまって良いのかという迷いがあるのです。それほどこの小説はぶっ飛んでいるのです。(異類異形) すなわちパンクなのです。パンクといいながら、小説中にはレゲエも出てきます。そういうところは、パンクと言うよりアバンギャルドといったほうがよいのかもしれません。と、これを読んでおられる諸氏にはいったい何を言っているのか解りませんよね?(意味不明) 時代小説にして軽妙洒脱。軽妙洒脱にして軽佻浮薄。軽佻浮薄にして純文学。純文学にしてアバンギャルド。なんかようわからん。(支離滅裂)この小説はそのなんかようわからんカオスの中に、風刺と諧謔があり、まさに、無茶苦茶、自由奔放・抱腹絶倒・笑止千万・奇想天外・荒唐無稽・前代未聞・奇妙奇天烈な小説なのである。

この本に、どれほどの風刺と諧謔が書かれているか。小説中の台詞から抜粋すれば解っていただけると思います。例えば86Pの一節、主人公・掛十之進に対する出頭家老内藤帯刀の台詞です。

「あ、そうだった、そうだった。いいんだよ。そこまではいいんだけれども、そのあとがいかん。というのは、君が嘲弄して大浦がどう反応して、それに対して自分はどう振る舞えばよいのか、っていうことを聞いたのがだめだ。なにがどうまずいかというと、君がやったことは指示待ちだ。これは仕事を進めるうえでもっともいけないことだ。というのは俺は大浦ではないし、大浦がどう反応するかその場になってみないと分からん。それは君だって条件は同じはずだ。だから君は、私が指示した傍若無人で無礼な若者という基本線にそって自分の頭でどういう風に振る舞うか考えなければならんのだ。指示されたことをやるのなら誰でもできる。言ってくれればやります、という人間はいらん。私が必要しているのは自ら考えて行動し、結果について責任をとる人間だ。そういう人間でないなら、別にいらん。殺す。
・・・・・(省略)・・・・・
次に君はいったいなんのためにこんなことをするのでしょうか?と聞いたが、君はそんなことを知る必要はない。君は兵だ。兵はただの駒に過ぎん。その駒がなんのために敵陣に突入するのでしょうか?なんて質問を発し、将がいちいちそれに答えていたのでは戦争にならない。兵は命じられるままに突入すればよいのだ。それをば、僕はなっとくいかないうちは仕事をしません、などと最近の餓鬼はほざくが、そんな70年代フォークソングみたいな心の優しみをもとめて会社に入ってきてもだめだ。なぜならビジネスは戦争だからね。君がいつまでもそんなことを言っていると会社は潰れ、君は職を失う。それでも、納得いきません、って言って怒るのかね。誰を相手に怒るのだ?会社は親じゃないんだよ・・・・」

なんという風刺、なんという諧謔か。かの筒井康隆氏を彷彿させるユーモア、高橋源一郎氏を彷彿させるわけのわからなさ・・・・すばらしい。

(追伸)

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