ウェルズの日記

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『人情裏長屋 / 山本周五郎(著)』(新潮文庫)を読む

人間が生活してゆくには、大なり小なり他人を押しのけななくてはならない。伊兵衛にはそれができなかった。目に見えなければいいけれども、少しでも、自分が誰かを押しのけ、誰かに邪魔になっている、ということがわかると、決してその席にとどまることができない。相手が気の毒になり済まなくなって、自分から身をひいてしまうのであった。
                              (本書325Pより)

山本周五郎氏の短編小説集『人情裏長屋』を読みました。

人情裏長屋 (新潮文庫)

人情裏長屋 (新潮文庫)

裏表紙の紹介文を引きます

居酒屋でいつも黙って一升桝で飲んでいる浪人、松村信兵衛の胸のすく活躍と人情味あふれる子育ての物語『人情裏長屋』。天一坊事件に影響されて家系図狂いになった大家に、出自を尋ねられて閉口した店子たちが一計を案ずる滑稽譚『長屋天一坊』。ほかに『おもかげ抄』『風流化物屋敷』『泥棒と若殿』『ゆうれい貸屋』など周五郎文学の独擅場ともいうべき“長屋もの”を中心に11編を収録。

私にとって一昨年11月以来久しぶりの山本周五郎氏の小説。読み始めからもう山本氏の世界引き込まれてしまいます。11編の短編どれをとってみても珠玉いえる。男同士の友情を描く『三年目』や『秋の駕籠』などは『さぶ』を髣髴させる話だ。
http://d.hatena.ne.jp/Jhon_Wells/20071101#1193917451
驚いたのは表題作『人情裏長屋』だ。めっぽう腕のたつ浪人・松村信兵衛は裏長屋住まい。金の入り用があると「取手呉兵衛」と名乗って道場破りをして金を稼ぐ。あっ、これは今から三十数年前、私がまだ中学生か高校生の頃にテレビでやっていた時代劇『ぶらり信兵衛道場破り』ではないか。高橋英樹が主演、信兵衛役でした。普段は贅沢をせずこつこつと仕事をしてつましい生活をしている信兵衛が、困っている他人を助けるためにまとまった金が入り用になると道場破りに出かける。信兵衛はめっぽう剣が立つので道場の門弟をつぎつぎ薙ぎ倒してしまう。いよいよ道場主との手合わせという段になって、最初は力の差を見せつけ道場主を追い詰めるのだが、そこで勝ってしまわず道場主がいまにも「参った!」という寸前になって逆に信兵衛が「参った!!」と言ってわざと負けてやり、あとで袖の下を頂戴するという筋書きであった。そうか、山本周五郎氏の小説がベースになっていたのか。三十数年たって初めて知りました。そういえばそんな浪人・信兵衛に岡惚れするおぶんちゃん役の武原英子の可愛かったこと。なんとも微笑ましく味わい深い時代劇でした。YouTubeで検索すれば少し視ることが出来るようだが、DVDは無いのかな。是非もう一度視たいものです。