ウェルズの日記

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『三人の悪党 − きんぴか1 / 浅田次郎(著)』(光文社文庫)を読む

「どうして私だけを許すの!」
 妻は手にしたあじさいの花束を、広橋の背中に投げつけた。
 路上に落ちた一枚を拾い上げて、広橋秀彦は花のいろを宿した厚い眼鏡を、静かに妻に振り向けた。
「わからないのか、そんなことが」
 続く言葉を打ち消そうとでもするように、頭上の木々が立ち騒いだ。精霊の仕業のように思えて、広橋は天を仰いだ。
「女の心がわりは許せても、男の変節は許せない − それだけのことだ」

                                  (本書204Pより引用)

三人の悪党―きんぴか〈1〉 (光文社文庫)

三人の悪党―きんぴか〈1〉 (光文社文庫)

浅田次郎氏の悪漢小説(ピカレスク)『三人の悪党 − きんぴか1』を読みました。

裏表紙の紹介文(あらすじ)を引きます。

阪口健太、通称ピスケン。敵対する組の親分を殺り13年刑務所で過ごす。大河原勲、通称軍曹。湾岸派兵に断固反対し、単身クーデターを起こした挙句、自殺未遂。広橋秀彦、通称ヒデさん。収賄事件の罪を被り、大物議員に捨てられた元政治家秘書。あまりに個性的で価値観もバラバラな3人が、何の因果か徒党を組んで彼らを欺いた巨悪に挑む!悪漢小説(ピカレスク)の金字塔。

ピカレスクと云うよりエンターテイメントと云った方がピタリとくるかも知れない。
主人公となる3人、坂口健太、大河原勲、広橋秀彦は現代においてはいささか時代遅れの個性を持つ。昔ならこうした個性は褒められこそすれ、決して笑われるようなことではない。しかし忠節を誓ったり、正直に生きたり、義理を重んじたりすることが彼らをヒーローにするどころか、かえってピエロに見せてしまう。浅田氏はそうしたアイロニーに満ちた状況をユーモアを持って滑稽に描くことによって、現代の歪な価値観が生む悲哀をあぶり出す。
楽しくも悲しい小説。5点満点中5点を文句なしにつけます。
浅田次郎氏は稀代のストーリーテラーです。
続編の「血まみれのマリア − きんぴか2」「真夜中の喝采 − きんぴか3」を読むのが楽しみです。