坂を登っているときは、どんなに苦しくても途中でペダルを漕ぐ脚を止めてはいけない。急な上り坂で自転車が止まったらそれが最後だ。特に荷が重い場合はなおさら、てこでも動かなくなる。二度と乗って走ることはできない。そうなったら、少なくともその坂の頂上までは"押し"をやるしかない。押しは自転車乗りの最大の恥である。
(本書P88より)
痺れたー、この小説には私を惹きつけるものが溢れている。
風間一輝氏の1989年デビュー作『男たちは北へ』を読み終えました。読んでいて何度も「カッコイイ」とため息を洩らした。良い小説だ。
本の帯には・・・・・「このミス」1989年ランキング6位、サイクルロードノヴェルの傑作。・・・・・・別冊宝島1503号『もっとすごい!!「このミステリーがすごい!」』★ベスト・オブ・ベスト国内編★第12位・・・・とある。今までどうしてこの本に出会わなかったのか不思議だ。
- 作者: 風間一輝
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1995/08
- メディア: 文庫
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裏表紙の紹介文を引きます。
東京から青森まで―緑まぶしい五月の国道四号線を完全装備の自転車でツーリングする中年グラフィク・デザイナー、桐沢風太郎。ひょんなことから自衛隊の陰謀さわぎに巻き込まれ、特別隊に追跡されるはめになった。道中で出会ったヒッチハイクの家出少年、桐沢、自衛隊の尾形三佐―追う者と追われる者の対決、冒険とサスペンスをはらみつつ、男たちは北へ。男たちのロマンをさわやかに描く傑作ロード・ノヴェル。
物語は二人の男を主人公に進んでいく。学業優秀だが貧乏な家庭で母を養うという義務感から本意ではない自衛隊エリートの道を歩んだ男・緒方三佐、自分なりのダンディズムを貫き通すタフガイのグラフィックデザイナー桐沢風太郎の二人である。それぞれの一人称視点で交互に物語っていく形式で書かれており、物語の進行につれて緊迫感が増していく。ウマイ描き方だ。加えて、二人ともそれぞれ態度には表しはしないが、お互い徐々に好感を持っていく様が読者に伝わってきて好ましい。お互いをひとかどの男として認め合う、ハードボイルド小説の醍醐味だ。二人はそれぞれタイプは違えどハードボイルドヒーローである。この二人にはもう一つ「酒呑み」であるという共通点がある。このあたりも風間氏のこだわり(あるべき男の姿)なのだろう。
小説の中で桐沢はさまざまな地酒を飲む。折角なのでそれらの酒を抜き書きしておく。
■ 四季桜 (栃木県・宇都宮酒造株式会社)
■ 奥の松 (福島県・奥の松酒造株式会社)
■ 岩手川 (岩手県・株式会社岩手川)
■ 南部美人 (岩手県・南部美人株式会社)
■ 宮寒梅 (宮城県・合名会社寒梅酒造)
■ 鏡山 (埼玉県・小江戸鏡山酒造株式会社)
■ 志太泉 (静岡県・株式会社志太泉酒造)
このうち「株式会社岩手川」は倒産したらしいのだが、その他の酒はぜひとも味わってみたい。
ハードボイルド・ミステリ小説としての楽しみ、サイクリストとしての楽しみ、酒呑みとしての楽しみ、色々な意味で楽しませてくれる最高の小説だ。