他人の非をあばくことは容易だが、あばいた後、村の中の人間関係は非を持つ人が悔悟するだけでは解決しきれない問題が含まれている。したがってそれをどう処理するかはなかなかむずかしいことで、女たちは女たち同士で解決の方法を講じたのである。そして年とった物わかりのいい女の考え方や見方が、若い女たちの生きる指標になり支えになった。何も彼も知りぬいていて何にも知らぬ顔をしていることが、村の中にあるもろもろのひずみをため直すのに重要な意味を持っていた。 (本書39Pより)
- 作者: 宮本常一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1984/05/16
- メディア: 文庫
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『忘れられた日本人』(宮本常一:著/岩波文庫)を読み終えました。青164−1です。さる読書の会(「四金会」といいます)の今月の課題図書です。普段は小説を基本として読んでいますので、四金会に参加していなければ一生読むことなく過ごしていたでしょう。読めて良かった。触発され、物事を見る目がすこし変わった気がします。
「忘れられた日本人」とは、文字によって伝えられることなく語りによって伝えられる日本人と捉えたらよいのであろうか。おそらく宮本氏が全国を歩き話を聴いて廻らなければいずれは忘れられてしまったであろう風俗。語られた内容を文字に表し記録した著者の偉業に心から敬意を表したい。
なかでも深く感銘を受けたのは対馬における「寄りあい」。村で取り決めをおこなう場合には、みんなの納得のいくまで何日でもはなしあう。多数決で決めるような乱暴なことをしない。そのような発想がないことに驚きを禁じ得ない。すばらしい文化ではないか。
表紙の紹介文を引きます。
昭和14年以来、日本全国をくまなく歩き、各地の民間伝承を克明に調査した著者(1907‐81)が、文化を築き支えてきた伝承者=老人達がどのような環境に生きてきたかを、古老たち自身の語るライフヒストリーをまじえて生き生きと描く。辺境の地で黙々と生きる日本人の存在を歴史の舞台にうかびあがらせた宮本民俗学の代表作。