佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

太陽の塔

 禁欲的生活。
 この言葉を聞いて、まず思い浮かぶのは、かつての僧坊であるが、そんな彼らも禁欲的生活を維持するために様々な手を弄した。ためしに手を弄することを止めてみれば、とたんに世界は輝きに満ち、あまりにも眩しすぎてそれはもはや正視に堪えず、上求菩提下化衆生(じょうぐぼだいげけしゅじょう)などと言ってはいられない。かえって手を弄することに夢中になって、本道を忘れる者もいたろうが、我々は彼らの轍を踏むことは避けたいと願っている。あくまで理性を保ち、我々がジョニーを支配するのだ。決してその逆であってはならない。 (本書60Pより)

太陽の塔 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)

森見登美彦氏の小説『太陽の塔』(新潮文庫)を読みました。

裏表紙の紹介文を引きます。

私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった!クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

京都の冬に暴力的な猛威をふるうクリスマスという厚顔無恥な馬鹿騒ぎを憂い、昨今の恋愛礼讃主義に敢然と異を唱え、かような理不尽極まりないクリスマスファシズムに対し「日本人はもう一度節度を取り戻さねばならぬ」と固く心に誓う四人組。私と飾磨大輝(しかまだいき)、高藪智尚(たかやぶともなお)、井戸浩平の哀しくも苦悶に満ちた学生生活。

彼らは溢れんばかりの知性(痴性?)を持って生まれ、その知性を無駄にすることおびただしい。軽佻浮薄な風潮に流されることなく、荒ぶるジョニーをかろうじて理性で統制する彼らは紛う方なき日本男児。果たして彼らに魂の救いはあるのか。願わくは彼らに神の祝福多からんことを。

本書は森見氏が京大の院生であったころに執筆したものにして、氏のデビュー作。独特の文体、知的なユーモアに溢れた言い回しによって、京都に生息する知的おバカの生態が厭味なく描かれる。そしてついに物語をファンタジーにまで昇華させ、読者をして森見ワールドに引き込んでしまう実力に舌を巻いた。はっきり言って大好きです、森見氏のこの回りくどい文章。