佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

すっぽんの首

7月6日

すっぽんの首

 その伸び方が尋常ではなかった。どこまでも伸びてくるのである。すっぽんを押さえている仲間たちからなんとも言いようのない驚きの声があがった。
「おお」
「ああ」
 たちまちその首はすっぽんの甲羅の長さに近いくらいにまで伸びた。料理長がそこで間髪をいれず出刃でばさり。
「おお」
「ああ」
 再びまわりからさっきと同じような声があがった。そこにいるのは男たちばかりであったから、そのおもいがけないくらいに伸びていったすっぽんの頭と首は男なら誰しもそこでやるせない親近感的激痛感を抱いた筈であった。そして切断されてしまったときのいたたまれない喪失感も同時に味わったようであった。

                        (本書P86より抜粋)

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『すっぽんの首』(椎名誠/著・文春文庫)を読みました。

私はシーナさんのエッセイはたくさんたくさん読んでいます。

初めて神戸・三宮の書店でシーナさんのエッセイを手に取ったのはたしか1981年の今頃の季節のことであった。その本は忘れもしません『かつおぶしの時代なのだ』でした。かつおぶしさえあれば人類は不滅だと豪語していました。そして、「愛の水中花」などを鼻歌で口ずさみながら赤いマニキュアをつけた手で米をといでいる若妻に怒り狂っていました。そしてそれを読んだ私はその一言ひとことに激しく同意していました。それ以来、約30年間、私はシーナさんを追っかけてきました。シーナさんは乱造なのではと言われるほどたくさん出版されるので、まだ読んでいない本もあるわけですが、大抵の本は読んできたと自負しています。本屋さんでまだ読んでいない本をみつけると速攻で買います。そんな風に買った本がこの本です。古本屋でみつけました。105円でした。

裏表紙の紹介文を引きましょう。

チベット人が苦手な匂い。東京でのひるめし問題とチベットでのフライド・エッグ騒動。世界いい宿わるい宿。南の島で会ったそのスジの人。吉野川で対面したすっぽんの首。旅における排泄と睡眠の考察。南の島の木の話……などいつもの痛快面白シーナ節に、作家としてデビューする前後の、秘められたるエピソードが紹介される。

いつものとおり、日常をスルドク見つめるシーナさん独特のエッセイです。シーナさんが若く流通業界紙の編集長をしていた頃の話も出てくるので、シーナ・ファンには嬉しい。それにしてもシーナさんの排泄に関する考察は結構奥深い。本書に収められた「たびのねるだす」を読んで「ウーン……」とうなられた方は、他のエッセイ集『ロシアにおけるニタリノフの便座について』を読まれることをお薦めしたい。たしか劉邦の皇后呂太后が憎らしい愛人に対して行った「人豚」というすさまじいリンチの話が載っていたと思います。怖ろしい話です。

 

 

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