佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『塩の街』(有川浩・著/角川文庫)

僕らが滅ぶか滅ばないかの瀬戸際なのに、どいつもこいつも悠長でね。

人道的見地がどうの人権がどうの。

誰もいなくなったらそんなお題目は誰が語るの。

きれいごとや理想なんてね、生きてなくちゃ語れないんだよ。

塩の街』(有川浩・著/角川文庫)を読みました。2週間前に同じく有川氏の『空の中』を読み、すばらしく良かったので読もうと思ったもの。シャワシャワリンさんからの強い推薦もありましたしね。

塩の街 (角川文庫)

塩の街 (角川文庫)

  • 作者:有川 浩
  • 発売日: 2010/01/23
  • メディア: 文庫
裏表紙の紹介文を引きます。

塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた。その崩壊寸前の東京で暮らす男と少女、秋庭と真奈。世界の片隅で生きる2人の前には、様々な人が現れ、消えていく。だが―「世界とか、救ってみたくない?」。ある日、そそのかすように囁く者が運命を連れてやってくる。『空の中』『海の底』と並ぶ3部作の第1作にして、有川浩のデビュー作!番外編も完全収録。

すばらしく良かったです。物語の設定は「宇宙からの隕石らしき謎の物体が次々と地球上に落下後、人々が次々と塩化していくという怪現象があらわれ、人類は為す術もなく社会は崩壊していった」というもの。かなり大胆な設定で、下手をすれば「こんなモン、読んでられっか!」となりかねないのですが、読み始めたらこれが止められません。すぐに物語に引き込まれ、登場人物に感情移入してしまいます。私は出張中の電車の中でこれを読んだのですが、不覚にも電車の中で泣きそうになりました。この小説は有川氏のデビュー作らしく他の『空の中』『海の底』と併せて「自衛隊三部作」と呼ばれているらしい。デビュー作らしく「拙さ」を感じる部分もある。ライトノベル風とでも言いましょうか。しかし、そのテイストがまた初々しくて良いのである。「巧く書けているが面白くない物語」と「拙いが面白い物語」ではどちらに軍配が上がるかは自明の理。他にも『阪急電車』『シアター!』『図書館戦争』などなどたくさんの作品が出版されているようなので、これら作品も読んで有川氏を応援していきたい。

ちなみに、この小説に出てくるカップル「秋庭と真奈」「由美と正」は今風のカップルながら、そのメンタリティーはけっこう古風ですね。『空の中』に出てくる「瞬と佳江」「高巳と光稀」もそうでしたけど。言いたいことを言えない、近づきたいのに近づけない、お互いをかけがえのない存在として大切に思いながら、お互いを思いやりすぎてぎくしゃくする。このイジイジ感がたまりません。

それから、脇役で登場する入江慎吾、ナイスキャラです。海堂尊氏の小説に出てくるロジカルモンスター・白鳥圭輔にも似た圧倒的存在感。脇役が光ってるのも良い小説の条件ですね。