佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

それからはスープのことばかり考えて暮らした

「どうしてこんなにおいしいんでしょう」

素早く質問をしてみた。

「ああ、それはたぶん、お腹が空いていたのでしょう」

店主氏は実に飄々としている。

「いや、でも、何かおいしくつくるコツがあるんじゃないですか」

「コツねぇ」

店主氏は少し考え、

「しいて言うと、細い指先をもった人は、コツなんて知らなくても、きっとおいしくつくれます」                              (本書P21サンドイッチより)

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』(吉田篤弘/著・中公文庫)を読みました。

本の帯にはこんなコピーがあります。

もしかして

これは恋愛小説かもしれない。

銀幕の女優とおいしいサンドイッチに恋をした青年の物語。

つむじ風食堂の夜』の著者が贈る「月舟町シリーズ」第二幕


月舟町シリーズ三部作のひとつです。

つむじ風食堂の夜』については昨年11月29日に読んでいますのでこちらをご参照下さい。

http://hyocom.jp/blog/blog.php?key=111930

なんとも温かい小説です。

登場人物がすべて魅力的で個性が際立っています。

この小説の登場人物の良いところは、誰もが自立して生きていること。

しかも、けっして自分勝手ではなく、むしろ廻りに気遣いながら生きている。

しかし、けっして自分自身の領分に他人が土足で入ってくることを許さない。

他人に過度に期待しない。

要は他人と絶妙の距離をとり、人の負担になるほどくっつきすぎず、寂しいほど離れすぎない。

その距離は「ヤマアラシのジレンマ」と呼ばれる心地よい距離。

「自己の自立」と「相手との一体感」という2つの欲求、

それを、ことさらに主張することなく、人に押しつけることなく、

唯々、生真面目に大切にして生きていく。

この小説の中では、みんな大人だ。子供でさえも。

ここに描かれた街はひとつの理想郷(ユートピア)である。

おいしいサンドイッチ屋さんと、夜鳴きそば屋(ラーメン屋)さんがあって、

電車に一駅乗ると古い映画を上演する小さな映画館がある。

そんな街に僕も住んでみたい。

できればおいしい豆腐屋さんもあればいいかな・・・