佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

五貫裁き (立川談志)

なんだってんだ、こんちくしょう。八公は乞食じゃねぇんだ、ものもらいじゃねぇんだぞ。「やったらとはなんだ」 てめえらの頭はそうなってやがるからろくなことはねえんだ。確かに八公は法を曲げた、法を曲げたから大岡様から科料をくらった。しかたがねえ。てめえところは法を曲げてはいねえかもしれねえが、人の情に背くからこんなことになるんだ。この大バカやろうめ!

                                       

 

立川談志ベスト』CD1に収録。

名奉行大岡越前守忠相の名裁き(いわゆる大岡裁き)を語った落語です。

 


(あらすじ)

 神田三河町に住む八公が主人公。八公は定職に就かずぶらぶらしていたが、人生をやり直そうと一念発起。大家の多呂兵衛の助言があって店を開く元手を集めるために町内に奉加帳を持って回る。しかし、最初に訪れた質屋「徳力屋」で一悶着あって血だらけで戻ってくる。徳力屋は町内でも有名な情け知らずのケチ。番頭はたった3文しか付けない。怒ると主人が出てきて1文を付けたことからけんかになったのだ。3文といえば今の貨幣で100円にも満たない金額。実は徳力屋は八公のおじいさんが、昔、家を取りつぶされるところを助けたといういわくのあるところ。その恩を忘れての仕打ちである。

 家主が理不尽さに怒り奉行所に願書をしたためて訴え出て大岡様の裁きになった。しかし、その裁きは八公が三文粗末にしたかどで5貫文の罰金を命ぜられる。それを毎日取り次ぎの徳力屋に1文ずつ持参せよと言う裁きだ。

 翌朝早くに八公は仕方なく1文を徳力屋に持参。徳力屋は「ざまあみろ」と馬鹿にしながら受け取る。しかし、受け取りを書く紙一枚も1文では買えないのだ。そのうえ、徳力屋がその金を小僧に持たせ奉行所に行かせたが、奉行所では半日待たされ、やっとの事で会えたと思えば、奉行に「主人である徳力屋万右衛門本人が、しかも町役五人組と一緒に持参しろ」とおとがめを受ける。あわてて五人組に手間の費用を払いお願いして持参すると、また半日ほど待たされ、夜遅くになってやっと1文を納めることが出来た。

 八公は、翌日も、翌々日も意地悪で朝の明ける前から1文を持参。ついには昼寝をして夜中に、今日の分、明日の分、翌々日の分と夜中に届けて徳力屋を寝かさない。

 5貫文といえば5000文。一日一文ずつとなれば、14年近くかかる勘定。裁きに勝ったと思っていたが、5000枚の受け取りを書かされるどころか、町役をつれて14年間毎日奉行所へ行かなければならないことに気付いた徳力屋はたまりかねて・・・


 

 

という噺。痛快である。八公と大家・多呂兵衛が薄情でしみったれの徳力屋をぎゃふんといわせる気持ちよさもさることながら、一見、徳力屋に勝たせた裁きも、実は弱い者に味方していた大岡裁きの見事さに唸らせられる。思わず拍手したくなる見事な噺です。