佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

海も暮れきる

『海も暮れきる』(吉村昭:著/講談社文庫)を読みました。

まずは出版者の紹介文を引きます。

さすらいの俳人・尾崎放哉の壮絶な死。

  咳をしても一人

  之でもう外に動かないでも死なれる

  肉がやせて来る太い骨である

いったんはエリートコースを歩みながら、やがて酒に溺れ、美しい妻に別れを告げ流浪の歳月を重ねる。小豆島で悲痛な死を迎える放哉の生涯を鮮烈に描く。

 

新装版 海も暮れきる (講談社文庫)

新装版 海も暮れきる (講談社文庫)

 

 

困ったことに、読んでいて尾崎放哉という俳人を全く好きになれない。むしろ読み進むにつれてどんどん嫌いになっていくのである。伝記的小説を読んでこのような体験は初めてだ。東大出を鼻にかける。金の無心など周囲に甘え、拒絶されると逆恨みする。酒癖が悪い。およそ伝記的小説の主人公たり得ない人物なのだ。本書の題名の元となった「障子開けておく、海も暮れきる」という句はちょっといいかなと自由律俳句に興味を覚えたものの、作中紹介された句のほとんどに「どこがいいの?」とツッコミを入れていた。つまり私には自由律俳句を解するセンスも人を恕すだけの雅量も無いのだ。肺病に冒され死期の近づいた放哉を世話したシゲや西光寺の住職・宥玄に比べて、私の何と未熟なことか。放哉同様酒に溺れがちな我が身の至らなさを羞じる。五十路も半ばになれば少しは己を磨くことを心がけねばなるまい。「忠恕」、私が心がけるべきはこの言葉だろうと考えた次第。