『超高速! 参勤交代』(土橋章宏・著/講談社文庫)を読みました。
まずは出版社による紹介文を引きます。
東北の湯長谷藩は、ある日お上から謂われのない難癖をつけられ、急遽5日以内に江戸へ参勤せよと命じられる。叛けばお取り潰し必定。―時間がない。財政難の小藩には費用も、行列を組む人手もない。心優しき藩主内藤政醇は知恵者の家老と共に策をこらす。妙案と頓智で難所を切り抜けていく殿と家臣の爽快劇!
先日『一路』(浅田次郎・著)を読んだのだが、またまた参勤交代ものである。『一路』は読み物として大変楽しく痛快であったが、この『超高速! 参勤交代』も痛快さにおいて決して負けてはいない。また、小説のテイストとして近いのは和田竜氏の『のぼうの城』でしょうか。どちらも映画になっているところも似ています。
軽く読める痛快活劇ではありますが、主人公・内藤政醇の人としてのあり方には深いところがあり、決して侮れない小説です。それが伺える一節を引いておきましょう。
「・・・・・・なんということじゃ。兄者は昔から貧乏くじばかり引く」
「政醇様が貧乏くじ、でござりますか」
治助が不思議そうに聞いた。
「さよう、親は冷たく、乳母にも恵まれず、藩を継げば常に金のやりくりに追われ、やっともらった嫁があれではな。それでも文句を言わぬし、心も曲げぬ。我が兄ながら大したもの」
琴姫はどんなときでもうつむかない兄の強さを想った。
「正しい行いをする者ほど道は暗いと申します。しかしその道を行ってこそ、まことに報われるというもの。私は政醇様の家臣でよかったと思います」
治助はにこりとした。