ウェルズの日記

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『黄漠奇聞』(稲垣足穂 1923年 「新潮文庫・日本文学100年の名作・第一巻 1914-1923 夢見る部屋」より)

新潮文庫・日本文学100年の名作・第一巻 1914-1923 夢見る部屋」に収録された『黄漠奇聞』を読みました。

 

 

壮大にして幻想的な短編。本物の三日月を我がものにしたいと考えた王。人はしばしばおのれの小ささを忘れ、森羅万象への畏怖を忘れてしまう。権力を手に入れることによって、おのれの身の丈を忘れてしまうのか。いや、たとえ肉体は小さく脆弱なものであっても、精神は宇宙をも駆け巡ることができるという心と体のアンバランス故の帰結なのかもしれない。人とはそういう存在なのだろう。本物の三日月を旗印としたいと望んだバブルクンドの王。私は彼のことを滑稽だとは思わない。見果てぬ夢を追う姿は美しく哀しい。良き小説でした。