佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『プリズンホテル 2 秋』(浅田次郎・著/集英社文庫)

『プリズンホテル 2 秋』(浅田次郎・著/集英社文庫)を読みました。

まずは出版社の紹介文を引きます。

花沢支配人は青ざめた。なんの因果か、今宵、我らが「プリズンホテル」へ投宿するのは、おなじみ任侠大曽根一家御一行様と警視庁青山警察署の酒グセ最悪の慰安旅行団御一行様。そして、いわくありげな旅まわりの元アイドル歌手とその愛人。これは何が起きてもおかしくない…。仲蔵親分の秘めた恋物語も明かされる一泊二日の大騒動。愛憎ぶつかる温泉宿の夜は笑えて、泣けて、眠れない。

 

プリズンホテル〈2〉秋 (集英社文庫)

プリズンホテル〈2〉秋 (集英社文庫)

 

 

 

「平成の泣かせ屋」の異名をとる浅田氏の 悪漢泣き笑い小説『プリズンホテル』第2弾。さすが「小説の大衆食堂」を自称するだけあって様々な味を楽しめます。大衆食堂で大切なことは気取らないこと、何度食べても飽きない味だろう。浅田氏が「一流レストラン」ではなく「大衆食堂」を自認するのは、けっしてご自身を卑下してでのことではないはず。多くの読者を笑わせ、しんみりさせ、泣かせる自信があってのこと、「これだけの小説を書けるものなら書いてみろ」という矜持を持ってのことだろう。浅田氏は本作中の登場人物・鉄砲常にこう言わせています。「ミソもクソも、似たようなもんですよ」と。

本書の主人公を毛嫌いする人は多いだろう。女子どもに暴力を振るうという性格破綻者である。フェミニストからは袋だたきに遭いそうだ。しかし、意外にも心の奥底には温かいものが流れている。むしろ「人間らしさ」において普通の人より激しく熱いものを持った人間である。そのあたりがよく現れた場面を引いて記録しておく。この場面こそが主人公の育ての親「富江」も主人公の愛人「清子」も、主人公から暴力を振るわれて尚、主人公を許し愛する理由だと思うから。そしてそれこそがこの小説の肝であると私は考えるのです。

「かわれよ」

ぼくは受話器をつきだした。母はひとこえ呻き、寝ぼけまなこで膝から起き上がった美加を抱きすくめて、ようやく言った。

「できない、できないよ」

「できるとか、できないとかじゃない。かわれよ。詫びのひとつぐらい言ったって、バチは当たらないだろう。富江はな、おまえのために人生を棒に振ったんだ。おまえが男とかけおちしてから、すっかり老け込んじまったおやじを見るに見かねて、メソメソ泣いてばかりいる子供が不憫で・・・・・・十七だぞ。知ってるだろ。たった十七の、東京の右も左もわからん、集団就職で秋田から出てきた女工だぞ。近所のババアどもから、おまえを追い出して後添いにおさまったなんて蔭口たたかれて、俺の父兄会に出てきても廊下でオロオロして、用務員にまで頭下げてたんだ。かわれよ。よくぞここまでセガレを育ててくれましたって、親子ほど年の離れたおやじに、よくぞ抱かれてくれましたって。あやまれよ、さあ、ほめてやれよ」

 

次巻『3 冬』を読み始めましたが、なんと「血まみれのマリア」が登場しています。『きんぴか』第2弾に出てきた素敵なキャラクターです。『きんぴか』が確か2009年に読んだので6年ぶりに阿部まりあに出会えました。ひょっとして「ピスケン」も登場するのだろうか。楽しみです。