『天切り松 闇がたり 第一巻 闇の花道』(浅田次郎・著/集英社文庫)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。
夜更けの留置場に現れた、その不思議な老人は六尺四方にしか聞こえないという夜盗の声音「闇がたり」で、遙かな昔を物語り始めた―。時は大正ロマン華やかなりし頃、帝都に名を馳せた義賊「目細の安吉」一家。盗られて困らぬ天下のお宝だけを狙い、貧しい人々には救いの手をさしのべる。義理と人情に命を賭けた、粋でいなせな怪盗たちの胸のすく大活躍を描く傑作悪漢小説(ピカレスク・ロマン)シリーズ第一弾。
「たかが盗っ人風情が偉そうなことを云うんじゃねぇ」と言ってしまえばそれまでだ。黒にもいろいろある。自分が白いといって黒を嘲笑う者は、自分が混じりけのない白ではないことを知りはしない。赤貧洗うがごとき身の上にあって、身を穢し、悪に手を染めたとしても、心のあり方だけは真っ白でありたいと願う心が切ない。苦界に身を落とし、運命にあらがえないと覚悟した人間が命を懸けてとおす最後の意地、滅びの美学をよっく耳をかっぽじって聴きやがれ、よっく目を開けて見やがれ。ピカレスク・ロマンここに極まれり。