佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『宮戸川』(柳家喬太郎)

 今朝のTBSチャンネル「落語研究会」に懸かった噺、柳家喬太郎の『宮戸川』がすごかった。

 この噺には前半と後半があるが、最近は前半しかやらないらしい。前半とはこんな話である。

小網町の質屋のせがれ半七は碁将棋に凝っており、ついつい毎晩帰りが遅くなる。それに業を煮やした堅物の親父に家を閉め出されてしまう。片や隣家の船宿の娘お花もカルタとりに夢中になり遅くなってしまい家に入れてもらえずにいる。仕方なく霊岸島にある叔父の家に泊めてもらおうとする半七に無理矢理お花がついていく。早合点で訳知り顔の叔父は二人を一枚の布団しかない二階に上げ、はしご段を外してしまう。仕方なく二人は一つの布団に入ることになったが、うぶな二人のこと、なかなか眠れない。そうこうするうちに雨模様になり雷が鳴り始めた。大きな音がするとお花が恐がり半七にしがみつく。あとは・・・ 

  まことに微笑ましい話で、この前半のなれそめの段を語ったところで「ちょうどお時間です」などといって下げる。とまあ、こんな具合に語られるそうです。しかし今日は話の後半まで、つまり元々の噺を通して語ってくれました。後半は微笑ましい前半とは打って変わって陰惨な話になります。

 半七の親は頑固でふたりの結婚を認めなかったので、叔父の世話でふたりは小さな商売を始めた。仲よく商売に励み店は繁盛していた。ある日、お花は浅草寺へお参りに行く。途中雷雨に遭い、小僧に傘を取りに行かせた。小僧が戻ってくると、お花は忽然と消え去っていた。半七をはじめ店の者は懸命に探すが、行方知れずのまま半年が過ぎた。行方不明になった日を命日として弔った。2年が過ぎ、三回忌に菩提寺に参詣の帰り舟を雇い、酒も五、六本用意させた。そこに酔っ払った船頭仲間が乗せてくれという。一人ではさみしいのででは酒の相手をして貰いましょうと乗ることを許した。その男が酔っ払って半七に語ったことが恐ろしい。「二年前の夏に、浅草寺でふと見かけた女をさらい、仲間二人となぶり者にした上、顔を見られたため、発覚を恐れ殺して、宮戸川へ放り込んだ」と告白される。お花はおまえの手にかかったのかっと半七はその男に襲いかかり敵を取ろうとする・・・

 そこで半七は肩をたたかれ目を覚ます。目を開けると小僧が旦那様、起きてくださいと言っている。2年の経過と船頭の告白は、うたた寝していた半七の見た悪夢だった。お花は何事もなく元気にしている。半七の「夢は小僧の使いだ」(「夢は五臓の疲れ」ということわざの地口)で下げとなる。

  最後は何だ夢だったか、良かった良かったとなるものの、真に迫った強姦殺人が語られるだけに恐ろしい話になる。噺を聞くなかでおぞましさを感じ、憎しみが増せば増すだけ夢だと判った安堵が際立つ筋立ては見事。『新版 落語手帖』(矢野誠一・著)にも書いてあるが、たいていの解説に「『宮戸川』の後日譚はつまらないからなれそめしか演じられない」と片づけているのはまちがいで、後日譚を巧みに演じる噺家がいなくなったのだと思われる。それほどこの噺を演じるのは難しい。あえてこの噺を通して懸ける柳家喬太郎の意気やよし!

 

新版・落語手帖

新版・落語手帖

 

 

YouTube柳家喬太郎が『宮戸川・下』について語っているのを見つけた。

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静止画ですが柳家喬太郎の演じる『宮戸川』も見つけました。

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