佐々陽太朗の日記

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『魂をなくした男』(ブライアン・フリーマントル:著/戸田裕之:訳/新潮文庫)

『魂をなくした男』(ブライアン・フリーマントル:著/戸田裕之:訳/新潮文庫)の上下巻を読み終えました。

出版社の紹介文を引きます。

 (上巻)チャーリー・マフィンはモスクワの空港で妻ナターリヤと娘を英国へ逃がすも、自身は銃撃で負傷、病院に運ばれ当局が尋問を始める。MI6はロシア連邦保安局副長官の亡命に成功するが、彼は息子が合流しないかぎり英政府には何も情報を提供しないと黙秘。MI5の保護下に置かれたナターリヤもまた、チャーリーを連れ戻すまでは、と協力を拒否している。大好評3部作、遂に完結。

(下巻)MI6部長は焦っていた。チャーリー暗殺を計画したが失敗。再び抹殺を企てるも、同組織内では早くも責任のなすりあいが始まっていた。一方でMI5はチャーリーを狙撃した犯人を突き止めるため調査を開始。そんな中、MI6がチャーリーに銃口を向けるのが目撃され、両情報機関の非難合戦はピークに。諜報員同士の騙しあいに次ぐ騙しあい、暗闘、嫉妬……。エスピオナージュの白眉。

 

 

魂をなくした男(上) (新潮文庫)

魂をなくした男(上) (新潮文庫)

 
魂をなくした男(下) (新潮文庫)

魂をなくした男(下) (新潮文庫)

 

 クロスカッティングの手法で緊迫感と臨場感を持たせてはいるものの、上・下巻700頁超のほぼすべてが尋問と会議での討論シーン。しかも少なくともシリーズの直近二作を読んでいないと何がなにやら判らない内容。前作の内容を思い出しながら読む上巻はかなり辛抱を強いられた。しかし、翻訳済みシリーズ一四作すべてを読んでいる者のみにこそ、この巻を楽しむ権利があるという意味で、本シリーズファンにとってたまらない2冊である。

 フリーマントルは1936年6月10日生まれというからもうすぐ80歳の誕生日を迎える。おそらくこのレッドスター三部作の完結をもってチャーリー・マフィン・シリーズは事実上の最終巻となるのだろう。名残惜しいことではあるが、本書に描かれたスパイの騙し合い、駆け引き、知恵比べの出色の出来をもってシリーズの締めくくりとするのもよいのではないか。