佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

2016年8月の読書メーター

2016年8月の読書メーター
読んだ本の数:9冊
読んだページ数:2883ページ
ナイス数:1095ナイス

 

8月23日から25日までニッポン丸で種子島へクルーズ。その船中で美しい海と島々を眺めながら話題書三冊を読んだ。至福の時であった。

一〇〇年前の女の子 (文春文庫)一〇〇年前の女の子 (文春文庫)感想
ここに書かれているのは、寺崎テイという明治、大正、昭和、平成を生きた一人の女性の生涯だが、ただそれだけでなく、明治、大正、そして昭和初期の貧しいが誇り高く生きた日本人、それも特別な人ではなく一般庶民の暮らしぶりである。ものが豊かで便利な現代にあって、当時の人々の姿はなんとつましくも凜としたものだったのかと、我が身を省みて甚だ決まりが悪い。皆が生きていくうえでどうしようもないことも起こり得ることを知りながら、お互いを思いやり精一杯生きる姿に目頭が熱くなりました。
読了日:8月25日 著者:船曳由美


天才天才
真実とは何か? 歴史上のおいて真実とは覇者の言い分である。では正義とは何か? それを問うたとして、それぞれの国ごと、それぞれの党派ごと、それぞれの個人ごとに正義はある。つまりアメリカにもロシアにも中国にも日本にもそれぞれ違った正義があり、田中にも、福田にも、中曽根にも、三木にも、竹下にもそれぞれの正義があると云うことだ。アメリカに危険な男と見なされてつぶされた天才。彼に刑事被告人として有罪を宣告されるだけの非行が本当にあったのかどうか、真実は定かでない。断片的な事実をつなぎ合わせたものを真実と呼ぶならば、真実など幾通りもある。見え方が180°違った真実もありうるだろう。いわんや「正義」においてをやである。本書を読んで確かなことは、我々は一つの見方だけ(それも他人から与えられた見方)で物事を判断してはいけないと云うこと。マスコミの云う「真実」や「正義」など戯言に過ぎないと云うことだろう。

読了日:8月25日 著者:石原慎太郎

 

海の見える理髪店海の見える理髪店感想
父と息子、母と娘、夫と妻、人は皆、家族の幸せを願っている。それは祈りに近い切ない思いだ。しかしたいていは思い通りにはならない。たとえ思い通りの家族の姿を手に入れたと思っても、よき時は儚く姿を変えてしまうものだ。それだけに幸せな刹那は決してわすれられない宝物だ。しかしその宝物が輝いていればいるほど、大切にすればするほど、それを失った哀しみは深い。その人を失って心に負った傷は決して無くなりはしないけれど癒やしていかなければならない。なぜならそれが先立った者の願いであるはずだから。そういうことかな。
読了日:8月25日 著者:荻原浩


ワニはいかにして愛を語り合うか (新潮文庫)ワニはいかにして愛を語り合うか (新潮文庫)感想
十三年と十七年の周期ゼミの話が特に印象に残った。この二つの種が同時に発生する年は221年に一度だけめぐってくる。悠久の歴史の中で13と17という周期を選んだ理由が捕食者との生活周期を最小限にする知恵なのか、交雑を避けるためなのかは現時点で定かでない。あるいは他の想像もつかない理由によるものかもしれない。生物学者はそうしたこと解明すべくひたすら努力している。なのに私のように本ばかり読んでいるような人間は「二百二十一年に一度の逢瀬は浪漫チックだ」などと頓珍漢なことを考えているのだ。無益な人間なのだな、私は。
読了日:8月17日 著者:日高敏隆,竹内久美子


天下り酒場 (祥伝社文庫)天下り酒場 (祥伝社文庫)感想
初・原宏一である。知人I女史からの借り本。確かに奇想です。何とも云えず嫌なテイスト。たまにはこんなのも良い。私は基本ハートウォームなものが好きなので、原氏の他作を読むかどうかは微妙。本書に収められた6作の中では「昼間の盗聴器」が好み。少しだけ心が和んだ。後は・・・。「ボランティア降臨」なんてのは、何とも云えず不気味で嫌な味。ただしこの不気味さはは二度と忘れることはないであろう味。原氏はそうしたものが書きたかったのでしょうから、短編小説として成功しているかな。
読了日:8月16日 著者:原宏一


悪夢の身代金 (幻冬舎文庫)悪夢の身代金 (幻冬舎文庫)感想
このシリーズ、どれを読んでもドタバタで少々下品だが、場面展開がめまぐるしく意外性の連続。文章は読みやすく、場面が変わるごとに読者の新たな興味を引く設定が凝らしてあり、スピード感を持ってグイグイ読める。読み手が正しいと認識していた世界が次々と違う顔を見せ、いつの間にか何が正しいのかわからなくなる。そしてついには世界がひっくり返っている。一言で言うとオモシロいのだ。娯楽性を追求しているという意味では、木下氏の小説に教訓はない。しかし、本書に出てきた「カエルとサソリの逸話」は人という生き物の本質を突いている。
読了日:8月14日 著者:木下半太


悪夢のクローゼット (幻冬舎文庫)悪夢のクローゼット (幻冬舎文庫)感想
久々に木下半太氏の悪夢シリーズを読みました。このシリーズをこれまで沢山読んできましたが、相変わらずのばかばかしさ。しかしそのばかばかしさが好きです。甲子園のヒーローになったエースが男子高校生の憧れの先生にベッドに誘われるといった設定から、あれよあれよと意外などんでん返しの連続。良くもこれだけいい加減な話が思いつくなあと感心する。なんの教訓らしいものもない。あるとすればこの世はウソと不条理に満ちているということぐらいか。
読了日:8月11日 著者:木下半太


ハゲタカ2(下) (講談社文庫)ハゲタカ2(下) (講談社文庫)感想
真山氏は「本当のサムライは、いつどこで死んでも悔いのないよう、どう生きるかを常に考えているのだ」とアラン・ウォード・シニアに語らせている。鷲津は父の残した「正義のために死ねるか」という言葉を常に自分に問いかけていたはず。アラン・ウォード・ジュニアが自分のために死んだのだと直感したとき、鷲津は死んだのだと私は考える。すでに死んだ身であれば何ものにもとらわれることなく為すべきことを為せる。怖れるものは何もない。地位にも、名誉にも、金にも、命にもとらわれることのない状態、常住死身、鷲津は恐ろしい男になった。
読了日:8月6日 著者:真山仁


ハゲタカ2(上) (講談社文庫)ハゲタカ2(上) (講談社文庫)感想
繊維業界の老舗「鈴紡」(モデルは「鐘紡」)の落日とそれを買収しようとする「月華」(モデルは「花王」)を中心に虚々実々の駆け引きが繰り広げられる。読み応えは第一作を凌駕する。かつては栄華を誇った名門企業が崩壊していく姿に経営者の責任とは何か、会社は誰のものなのかを考えさせられる。
読了日:8月2日 著者:真山仁



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