佐々陽太朗の日記

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『最終退行』(池井戸潤・著/小学館文庫)

『最終退行』(池井戸潤・著/小学館文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

都市銀行の中でも「負け組」といわれる東京第一銀行の副支店長・蓮沼鶏二は、締め付けを図る本部と、不況に苦しむ取引先や現場行員との板挟みに遭っていた。一方、かつての頭取はバブル期の放漫経営の責任をもとらず会長として院政を敷き、なおも私腹を肥やそうとしている。リストラされた行員が意趣返しに罠を仕掛けるが、蓮沼はその攻防から大がかりな不正の匂いをかぎつけ、ついに反旗を翻す。日本型金融システムの崩壊を背景に、サラリーマン社会の構造的欠陥を浮き彫りにする長編ミステリー。

 

最終退行 (小学館文庫)

最終退行 (小学館文庫)

 

 

 この作品は「文芸ポスト」(小学館)で2002年夏号~2003年秋号に連載され、その後、単行本、文庫本となって刊行されたものです。文庫本になったのは2007年5月のこと。テレビドラマ・半沢直樹シリーズが放映され始めたのは2013年7月のことだった。もちろん本書の主人公は半沢直樹ではない。しかし銀行内に潜む不正、それも経営層によるものを題材に、上にものを言いにくい銀行の体質、熾烈な出世競争など銀行の持ついやらしい体質を描くとともに、そんな環境の中にあって非情な金貸しとしてではなく真っ当な人間として顧客に対応しようとする行員を描いた点は半沢直樹シリーズと同様だ。

 池井戸さんの作品の中にあっては、銀行の利益より人として真っ当であることを優先しようとする行員は銀行内で少数派であり、どちらかといえば冷遇されている。現実の銀行においてもそうなのかは定かではないが、確かにバブル崩壊後の様子(週刊誌やネットでの書き込みレベルであるが)を見ると、銀行という組織の理論が優先されることがしばしばであるというのはあながち根も葉もないことではないように思う。それに熾烈な出世競争にさらされた行員が自分の上層部からの評価を良くするために、あるいは成績をあげるために取引先のためにならない行動をとるということもありそうだ。そんな人でなしが跋扈する銀行という組織で、優しい心であったり、人として誠実であろうとする心は時に足かせになる。そんな心を持った行員が、それ故に出世に後れをとったとして、それは己の考えに従ったまでのこと。そこまでは仕方がないと我慢する。しかし、そうした人間がさらに踏みつけにされ、真実が不当にゆがめられ責めを負わされるに至っては我慢も限界。「やられたらやり返す!」 まさに半沢直樹シリーズと同じパターンである。同じパターンではあっても、日本人はそうした勧善懲悪復讐劇が大好物なのだ。私も日本人のはしくれである。いやらしい悪人が小馬鹿にしていた人間から反撃されこてんぱんにやられた瞬間、やんややんやの拍手喝采をおくるものだ。この銀行版水戸黄門的ワンパターンこそが池井戸ワールドだ。素晴らしい。小難しいことは言わず素直に拍手をおくりたい。

 蛇足ながら、池井戸さんの小説に熱烈な女性ファンは案外少ないのではないか。本書の主人公・蓮池に対し、女性読者がどれほどのシンパシーを感じるかは大いに疑問です。失礼ながら、池井戸さんは恋愛ものはお書きにならない方が良いような気がします。大きなお世話でしょうけれど・・・(^^ゞ