佐々陽太朗の日記

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『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(山口周・著/光文社新書)

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(山口周・著/光文社新書)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

これまでのような「分析」「論理」「理性」に軸足をおいた経営、いわば「サイエンス重視の意思決定」では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできない――「直感」と「感性」の時代――組織開発・リーダー育成を専門とするコーン・フェリー・ヘイグループのパートナーによる、複雑化・不安定化したビジネス社会で勝つための画期的論考!

 

 

 これまで正しいと思っていたことが実は間違っていたことに気付きました。まさに「目から鱗が落ちた」思いです。

 タイトルは凡庸だが中身はロジカルにして明快。「分析」「論理」「理性」「科学」「帰納」「直感」「感性」「アート」「捨象」「美意識」「レトリック」「空気感」「真善美」などの言葉の位置づけと関係が説明され、それがビジネスにどう活かされどう作用するのかが解明される過程は理路整然としており、著者の意図が「ストンと己の腑に落ちる」感覚は快感と言っても良いほどだ。

  要旨は次のようなことかと理解した。

 世界のエリートはこれまでの「分析」論理」「理性」に立脚した科学的な意思決定ではなく「美意識」に基づく意思決定の必要性に気付き始めている。理由は大きく次の4点。

  1. ビジネスにおける意思決定手段として正しいと信じられてきた「分析的、論理的な情報処理のスキル」は多くの人がそれを身につけ、過度にそれに頼りすぎた結果、誰もが「他人と同じ正解を導き出す」という現象を生み出してしまい「差別化の消失」というジレンマに陥る。
  2. 今日の世界は「VUCA」ーVolatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)という四つの要素によって極めて予測困難な社会経済環境にあり論理思考的なアプローチは機能せず、そこで必要になるのは「全体を直感的にとらえる感性」である。
  3. 現代社会がマズローの言う欲求5段階説の最上位「自己実現欲求」に基づいた消費行動に移行しつつあり、そのような市場においては「人の承認欲求や自己実現欲求を刺激するような感性や美意識が重要」となっている。
  4. 社会の変化が早すぎて、システムの変化にルール(法律)の整備が追いつかない状況にある。事の善悪を法律だけに依拠して判断する実定法主義は社会倫理を大きく逸脱する危険性を孕む。故によりクオリティの高い判断をするためには、己の中にある「真・善・美」に依拠したいわば「美意識」による判断が必要となる。

 ではビジネスにおける意思決定を美意識や感性で行えば良いのかというと、そこは当然に美意識と感性の質が求められる。現状で低いと思われる私の美意識と感性をどうすれば高められるか、残念ながら本書にその記述はない。私の場合、そこが問題なのだがなぁ。