佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

新大阪にて

 新大阪駅についてすぐ居酒屋を探した。まだすこし雨が降っている。自ずと地下街に潜り込む。どこも席がうまっている。誰しも考えは同じなのだろう。私は一人、しかもふりの客である。そのうえ並ぶのが大っ嫌いな人間だ。早々に駅地下をあきらめて外を探すことにした。なんとなく寂れたふうに見える東口に向かう。

 駅を出て道路を渡り、ほんのちょっと歩いたところにその店はあった。といっても、どこの町にもあるような平凡な居酒屋だ。店の名前は覚えていない。カウンターと小あがり。小上がりには10人ほどの客が早い時間から飲んでいるらしく気勢を上げてている。カウンターは空いていた。自分なりに一番落ち着く場所に席を決める。おねえさんに今日のオススメは何かと訊ねる。「タケノコ。煮るか、焼くか、揚げるか、お好みで。鰹のタタキも美味しいよ」という。「じゃあ、タケノコを煮たのと鰹のタタキ」と注文する。「酒は何がある?」と訊ねると、燗をするなら土佐鶴、冷やなら冷蔵庫を見てくれという。席の後ろをふり返ってみると冷蔵庫にあるのは「出羽桜」「〆張鶴」「呉春」「浦霞」「緑川」・・・とならんでいる。大阪に敬意を表して突端は池田の酒「呉春」にする。タケノコとワカメの煮たのは美味かった。鰹のタタキもインスタ映えはしないけれど、普通に美味かった。お酒のおかわりに「出羽桜」を注文する。この酒は20代のころ、ずいぶん飲んだものだ。懐かしい。ちょっと燗酒も飲みたくなり「土佐鶴」を頼む。おねえさんが「熱燗ですね」と言った。「ぬる燗でいい」と言いたかったが、面倒くさくなって黙って頷く。だし巻きも注文する。

 酒を飲みながら、山本一力氏の直木賞受賞作『あかね空』を読む。100頁手前あたりで不覚にも涙を二粒ながしてしまった。けっして酔ったせいではない。山本氏は人情噺の手練れである。私のような単細胞を泣かせるのは造作もないことだ。

 読み進めるうちに本に集中したくなる。〆に「塩焼きそば」を食べてホテルに戻る。さあ、これから読書三昧だ。久々の山本一力ワールドを堪能することとしよう。

 

 

 

あかね空 (文春文庫)

あかね空 (文春文庫)