佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『闇の歯車』(藤沢周平・著/文春文庫)

『闇の歯車』(藤沢周平・著/文春文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

江戸市井の人たちの数奇な人生を描いたサスペンス時代長篇。藤沢周平ストーリーテラーとしての力量が発揮された傑作。

深川にある赤ちょうちんの飲み屋「おかめ」の常連である佐之助(博打にはまり賭場で人を刺し、いまは恐喝働きの生活をおくる)、清十郎(不倫関係から駆け落ちした病身の妻と、人目を忍んで暮らす浪人)、弥十(若い頃人を刺したが、いまは楽隠居暮らし)、仙太郎(賭場に借りがあるうえに年上の女おきぬと別れたい、若者)。この四人の一人に、愛想のいい商家の旦那ふうの伊兵衛が、大金強盗の押し込みを働く企てをもちかける。

たがいの身の上を知らない同士の四人が、百両の金にひかれて、闇の方向へ、その歯車をみずから回す決断をくだすーー。

 

闇の歯車 (文春文庫)

闇の歯車 (文春文庫)

 

 

 おぉ! これは・・・

 ハードボイルドではないか! 書き出しの一行にしびれた。「暑い夜だった。そして夜は始まったばかりだった」、まるでチャンドラー張りではないか。いや、山下達郎「土曜の夜は始まったばかり♪ まるで僕たちの愛のようなざわめき♪」か? いやいや、ふざけている場合では無い。これはウィリアム・アイリッシュの『幻の女』の書き出しを彷彿とさせる。

――夜は若く、彼も若かった。が、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。

 

 The night was young, and so was he. But the night was sweet, and he was sour.

 

 五人の悪党が登場する。一緒に押し込みをはたらく。藤沢氏はそのそれぞれに別々の末路を用意する。まるで素材に合わせて料理するかのように。非情で容赦ない末路もあれば、しんみりとするもの、心が温かくなり未来を予感させるもの。なかなかの名料理人である。

 

f:id:Jhon_Wells:20180529081055j:plain