佐々陽太朗の日記

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『伝説のエンドーくん』(まはら三桃・著/小学館文庫)

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『伝説のエンドーくん』(まはら三桃・著/小学館文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

中学校の職員室を舞台に、14歳という繊細で多感な年齢の子どもたちと日々真剣に向きあう中学教師たちの、リアルな姿を描いた連作集。その中学校には代々語り継がれる伝説のヒーロー「エンドーくん」がいる。校内のあちらこちらに残された「エンドーくん」にまつわる落書きの言葉が、それを目にした悩みや葛藤を抱える教師や生徒の一歩踏み出すきっかけとなった。なぜ「エンドーくん」が伝説となったのか?その謎がラストで明かされる―。坪田譲治文学賞受賞作家の傑作が待望の文庫化。巻末に文庫版のために書き下ろした「エンドーくん」のその後の物語を収載。

 

伝説のエンドーくん (小学館文庫)

伝説のエンドーくん (小学館文庫)

 

 

  物語の舞台は中学校。著者・まはら三桃さんが児童文学作家だということを考え合わせれば、おそらく北上次郎氏の次の言葉がなければ私は本書を読んでいなかっただろう。

「児童文学界には一般小説に転じても十分に傑作を書き得る作家がたくさんいるが、まはら三桃はそのうちのまぎえもなく一人なのだ」

 本の帯に書いてあったひと言である。私にとって北上次郎氏の推薦は絶大である。ほとんど天の声と言って良い。もう30年以上前のことになるのだが、椎名誠氏が小説『もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵 』において描いた北上次郎氏の衝撃の生態を読んで以来、私は敬愛の念を持って北上氏を見つめているのだ。物語は「本を読んでいないと、禁断症状が出てしまうほどの活字中毒である本の雑誌発行人、めぐろ・こおじ(北上次郎氏のこと)を罠にはめて、味噌蔵に閉じ込めてしまう」というもの。活字中毒者を一切活字に触れることの無い環境に閉じ込めてしまうと言う椎名氏のサディスティックな茶目っ気に私は甚く恐れおののいたものである。

 さて本書である。児童文学とはいえ、還暦近い私にも十分読み応えがあった。いや、むしろ物語を読み進めるにしたがいエンドーくんの正体が明らかになっていく中で、私はどんどん物語に感情移入していった。この物語は老年に入ろうとしている世代の者へのエールともいえるお仕事小説である。存分に楽しませていただきました。