佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『特別料理』(スタンリイ・エリン:著/ハヤカワ文庫)

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『特別料理』(スタンリイ・エリン:著/ハヤカワ文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

まったく何ともいいようのないうまさだった――隠れ家レストラン〈スピローズ〉で供される料理はどれもが絶品ばかり。雇い主ラフラーとともに店の常連となったコステインは、滅多に出ないという「特別料理」に焦がれるようになるが……。エラリイ・クイーンが絶賛した戦慄を呼ぶ表題作をはじめ、アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作「パーティーの夜」など、語りの妙と優れた心理描写を堪能できる十篇を収録した傑作短篇集!(解説:森晶麿)

 

特別料理 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

特別料理 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 

 料理にはいろいろある。熱いもの、冷たいもの、甘いもの、辛いもの、苦いもの。スタンリイ・エリンの『特別料理』は後味の悪さを楽しむものだ。いったい後味の悪さを楽しむことなどできようか。それを実現してしまうのがスタンリイ・エリンなのだ。本書には十篇の短編が収められている。ミステリ仕立てで一応の謎は用意されている。しかし、その何篇かは読者に結末の予測がついている。そうではあっても読者は結末まで読まずにはいられない。不思議なことに読者は予測通りの(好ましからざる)結末まで読み進めて満足するのである。物語は抑制された筆致で語られる。ハラハラドキドキなどない。その代わりに「あって欲しくない結末」にどんどん向かっていることをダメだダメだと思いながらどうしようもなく傍観者になってしまう自分を発見する。ひょっとして自分はこうした成り行きを楽しんでいるのか、心の中に悪魔が住んでいるのかと怖くなってしまうほどである。

 同名「特別料理」という短編が世にあるそうだ。『眼球奇譚』(綾辻行人・著/角川文庫)がそれである。七篇の短編の中にスタンリイ・エリン氏へのオマージュとして書かれた「特別料理」があるらしい。早速購入しよう。どうやら私の心の中には悪魔が住んでいる。

 

 

 

眼球綺譚 (角川文庫)

眼球綺譚 (角川文庫)