佐々陽太朗の日記

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『四十九日のレシピ』(伊吹有喜・著/ポプラ文庫)

四十九日のレシピ』(伊吹有喜・著/ポプラ文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

妻の乙美を亡くし気力を失ってしまった良平のもとへ、娘の百合子もまた傷心を抱え出戻ってきた。そこにやってきたのは、真っ黒に日焼けした金髪の女の子・井本。乙美の教え子だったという彼女は、乙美が作っていた、ある「レシピ」の存在を伝えにきたのだった。

([い]4-2)四十九日のレシピ (ポプラ文庫)

([い]4-2)四十九日のレシピ (ポプラ文庫)

 

 

 どういうわけか題名にある「四十九日」を極楽浄土に行けるかどうかのお裁きがある日といわれる「しじゅうくにち」だと思わずに「よんじゅうくにち」と読んでいた。というのも四十九日の法要のイメージだとレシピがなじまないからである。一般に法要の食事は仕出し屋からお膳を取ったり、料理屋に出かけて食べたりということが当たり前になっており、自分の家で作ることはあまりなくなっている。良くできた妻であり、娘にとって大好きな継母である乙美が亡くなってしまうところから物語が始まってはじめて、あぁその四十九日かと気がついた次第。

 物語は主人公の熱田良平の後妻、娘百合子の義母である乙美の死からはじまる。乙美がどんな人だったか、生きている間にどんなことをしてきたのかを、残された家族が四十九日を迎えるまでの間にあらためて振り返ることで、あるいは乙美と生前につながりがあった知人から聞かされるかたちでうかがい知ることによって、残された家族の心が癒やされ立ち直っていく姿が描かれる。

 もう一つ、物語の重要な筋として娘の百合子の離婚話がある。百合子は東京の大学で知り合った浩之と結婚し東京で暮らしている。子宝に恵まれず30歳を過ぎてから不妊治療をするが子供はできずあきらめている。最近は義母の介護に明け暮れる毎日。そんなとき、夫が不倫をしていることがわかる。しかもその相手が夫の子供を妊娠したというのだ。紆余曲折を経て、四十九日を迎えるころには立ち直り、最終的には夫をゆるす気持ちになるのだが、そこに至るまでの百合子の心の変化と成長が興味深い。

 父・良平と娘・百合子が亡くなった乙美の心の美しさや優しさ、他人を思いやりゆるすことのできる心の広さに気づくことで、人として大切なことに気づかされる。人を思いやることができるとき、結局は自分が幸せなのだということ、そういうことではないだろうか。論語・衛霊公十五「子貢問ひて曰く、一言にして以て終身之を行ふ可き者有りや。子曰く、其れ恕か。」を思い出す。「恕」に私も心せねばなるまい。