佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

忘憂の物

 Yが逝った。Yとは大学の同級生で、入学してから2年ばかり同じ下宿に暮らした。クラブ活動も少林寺拳法部に入部して一緒だった。

 東京で通夜式があった。家から遠く仕事もあるので平日であればなかなか参列がかなわなかっただろう。連休前に逝ったのはYが見送りに来いと言っているような気がしたので、地元の祭りを失礼して参列することにした。無宗教で営まれ、終始しめやかにショパンが流れるなか、会社の友人の弔辞、喪主である奥様のご挨拶の後、全員が花を手向けた。そういえばYはピアノを弾けた。格闘技が好きで少林寺拳法部に入ったが、ピアノも弾くヤツだった。

 考えてみれば少林寺拳法部の同期で逝ってしまったのはYが初めてだ。今年、8月に同期の者が神戸に集まったときにそんなことが話題になった。同期全員が元気で生きている。離婚をした者も一人もいない。皆、けっこう幸せだねと口々に話したものだ。Yは来ていなかった。我々には知らせてこなかったが、そのときすでにYは病を得ていたのだ。

 通夜式が終わった後、通夜振る舞いの席で奥様、お兄様、ご子息とYの思い出話をした。お兄様はYと私が同宿していた「さゆり荘」をご存じだった。奥様とご子息と話をして、良い家族だったのだとわかった。少し早かったが幸せな人生だったのだろう。奥様は私が毎年送っている年賀状を見るのを楽しみにしていたと言ってくださった。

 思い出話がつきず、長居してしまった。席を辞した後、もう一度通夜式の会場に行った。入り口のお花の横に少林寺拳法部同期の写真が置かれていた。あれから40年近くなる。集まった友人と一緒に近くの酒場で飲んだ。お酒には「忘憂」の名があると仰ったのは親鸞聖人だったか。

 友人と別れ、ホテルに向かう途中、日本橋を渡った。橋からふと水面に目をやると、水面がにじんで見えた。