佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『五条路地裏ジャスミン荘の伝言板』(柏井壽・著/幻冬舎文庫)

『五条路地裏ジャスミン荘の伝言板』(柏井壽・著/幻冬舎文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

京都路地裏にある「ジャスミン荘」は、居酒屋や喫茶店が軒を連ねる昔ながらの長屋。摩利が大家さんになってから、住人は路地入口の伝言板に毎日メッセージを書く約束なのだが、ある朝、ひとつ空欄が。部屋を訪ねると、中に死体!?この長屋は私が守る!居酒屋店主の絶品料理と、イケメン刑事の笑顔をエネルギーに、摩利は果敢に謎解きに挑む。

 

五条路地裏ジャスミン荘の伝言板 (幻冬舎文庫)

五条路地裏ジャスミン荘の伝言板 (幻冬舎文庫)

 

 

 ライトでコミカルなテイストのミステリー。って、こんなにカタカナばかり使ってはいけませんね。

 ミステリーではあるが、柏井壽氏らしく京都の良さが伝わってくる小説。たとえばプロローグを読むだけでも京都のイイものはそこかしこにちりばめられている。『開化堂』の茶筒、『柳月堂』のパン、『柳桜園』のほうじ茶、『ミール・ミィ』のミルクジャムと京都の良いもの、おいしいものが出てきて嬉しくなる。となると本編を読んでいても、和三盆を使った干菓子のおいしい店『亀屋久満』は実は『亀屋●●』だろうかとか、『六原食堂』はどこがモデルなのだろうと、ミステリーよりもそちらのほうに気をとられてしまう。

 TVや雑誌でもてはやされる表づらの京都ではなく、昔から町に息づく本当の京都を知って欲しいとの柏井氏の京都愛があふれているように思う。新興の行列が出来るうどん屋と町中の食堂のこしぬけうどんをめぐる考察など、今年の春に上梓された『グルメぎらい』(光文社新書)に通じるところがあると感じた。

 本書はミステリーの形をとっているが、その底流にあるのは柏井氏の食に対する考察であろう。