佐々陽太朗の日記

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『花だより みをつくし料理帖 特別巻』(高田郁・著/ハルキ文庫)

『花だより みをつくし料理帖 特別巻』(高田郁・著/ハルキ文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

澪が大坂に戻ったのち、文政五年(一八二二年)春から翌年初午にかけての物語。
店主・種市とつる家の面々を廻る、表題作「花だより」。
澪のかつての想いびと、御膳奉行の小野寺数馬と一風変わった妻・乙緒との暮らしを綴った「涼風あり」。
あさひ太夫の名を捨て、生家の再建を果たしてのちの野江を描いた「秋(しゅう)燕(えん)」。
澪と源斉夫婦が危機を乗り越えて絆を深めていく「月の船を漕ぐ」。
シリーズ完結から四年、登場人物たちのその後の奮闘と幸せとを料理がつなぐ特別巻、満を持して登場です!

花だより みをつくし料理帖 特別巻

花だより みをつくし料理帖 特別巻

 

 

 本書に収められたのは以下の4編。

  1. 花だより ~愛し浅利佃煮~
  2. 涼風あり ~その名は岡太夫
  3. 秋燕 ~明日の唐汁~
  4. 月の船を漕ぐ ~病知らず

 「みをつくし料理帖シリーズ」の最終刊完結編『天の梯』が発刊されて早4年。いつか続編が大坂を舞台に始まるのでは・・・と微かな望みを持っていた。今回特別編として「みをつくし料理帖シリーズ」の登場人物のその後が描かれた短編が4つ発表された。ファンとして僥倖に打ち震えながらむさぼり読んだ。

 4編それぞれに味わい深いが、抜きん出ているのはやはり「涼風あり」であろう。小野寺数馬とその妻・乙緒の心象風景が描かれた良作。かつて小野寺数馬は澪に惚れぬいていた。数馬が周りの心遣いと努力にもかかわらず澪を妻に迎え入れなかったのはけっして臆病であったからではない。心底、澪の幸せを考えてのことであったに違いないのだ。武家に嫁いだのでは澪の笑顔が損なわれると知っているからこそ別の道を行くことにしたのだ。澪と結ばれることなく数馬が結婚したのは能面のように感情を表に現さない乙緒。しかしそんな乙緒にも内に秘めた想いはある。惚れて惚れて惚れ抜いて一緒になった妻ではないけれど、そして容易に夫に心を見せない妻ではあるけれど、数馬はそんな乙緒の心の内にある真心に気づいている。そして姑の里津は数馬以上に乙緒のことを理解していた。情熱で結ばれる夫婦もあるだろう。そうありたいとも思う。しかしほんとうに夫婦に必要なのは真心と思いやりなのだ。それが分かるこの短編は秀逸です。小野寺数馬、なかなかの男であります。