佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

令和元年5月の読書メーター

5月の読書メーター
読んだ本の数:11
読んだページ数:3940
ナイス数:1578

 

 先月は読み出したらやめられない止まらないオモシロ本ばかりであった。特に今村翔吾氏の『火喰鳥(ひくいどり)』をはじめとする「羽州ぼろ鳶組シリーズ」は滅法界おもしろい。

下町ロケット ガウディ計画 (小学館文庫)下町ロケット ガウディ計画 (小学館文庫)感想
世の中にベストセラー小説の書き方というセオリーがあるとすれば、池井戸氏はそれを体得していらっしゃるに違いない。読み始めるや否や主人公たちに次々と降りかかる窮地、その元凶となる憎らしくも邪な悪役たち。それを権威や金は持たないが誠実でまっとうな主役たちが艱難辛苦の末に自らの努力と才能で打ち負かすのだ。そう、池井戸氏の真骨頂は悪役(ヒール)の描き方の妙にある。ヒールに対する鬱憤憎悪が最高潮に達したところで一気に逆転劇を見せてくれる。読者はプロレス的予定調和に強烈なカタルシスを得る。あぁ・・・スッキリした。
読了日:05月30日 著者:池井戸 潤


竈河岸 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)竈河岸 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)感想
髪結い職人の伊三次と深川芸者・お文の恋から始まった物語は、いつしか伊三次が仕える北町奉行定廻り同心の不破友之進とその妻・いなみの物語になり、さらにその息子・不破龍之進とその妻・きいの物語になり、さらに不破友之進の娘・茜と伊三次・お文の息子・伊与太の物語となった。伊与太、友之進、きい、茜がどのような人生を歩むのかをもっと読みたかったのだがそれも叶わない。残念だが本作が未完の最終巻と了見するほかない。人とは、人の人生とはそのようなもので、一人ひとりの人生はけっして完結することのない物語だ。
読了日:05月29日 著者:宇江佐 真理


慈雨 (集英社文庫)慈雨 (集英社文庫)感想
待ってました。《『本の雑誌』が選ぶ2016年度ベストテン》の第一位に選ばれた傑作がやっと文庫で発売になった。発売即重版。今年の4月25日に第一刷、直後の5月21日に第二刷という売れ行きである。さもありなん。読み始めるや否やぐんぐん作品に引き込まれ、寸暇を惜しんで読み続けた。作者のプロフィールを読むと、すでに大藪春彦賞日本推理作家協会賞を受賞した作品があるようだ。また追いかけてゆきたい推理作家に出会ってしまった。一日が24時間では短すぎる。一年が365日では足りないではないか。四国遍路もしたい。足りない。
読了日:05月26日 著者:柚月 裕子


九紋龍 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)九紋龍 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)感想
いい。どんどん良くなっている。昂奮度合いは前作『夜哭烏』のほうが上だったかもしれない。しかし巻が進むにつれ、読者のなかで登場人物の人となりがますますはっきりと像を結び、どんどん思い入れが深まっていく。本作ではさらに興味深いキャラクタの戸沢正親という藩主の親戚筋の男も登場した。次巻でこの男がどのように絡んでくるのか想像するのも楽しい。シリーズものとして完全に成功しているといえる。ぼろ鳶組・組頭の松永源吾の妻・深雪の魅力がますます際立ち、火消という男の世界に華を添えているところも見逃せない。
読了日:05月23日 著者:今村翔吾


あなたに捧げる私のごはん (バーズコミックス スペシャル)あなたに捧げる私のごはん (バーズコミックス スペシャル)感想
先週、京都の本屋「ホホホ座」で買ったものです。  ヒロインがいきなり未亡人で始まる物語。表紙の画は喪服を着た未亡人が横座りで新米の入った米袋を抱きかかえている。その本がビニール袋に包まれていたものだから、中身をパラパラ立ち読みもできない。なんだかロマンポルノっぽいなと思わず購入と相成ったのである。さて、中身はどうだったのか。それをここで語るわけにはいかない。ビニ本は買ってはじめて中身を観ることができるものだから。「ホホホ座」の企てはそうに違いないのだから。
読了日:05月19日 著者:松田 洋子


夜哭烏 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)夜哭烏 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)感想
人の心と心は意想外の化学反応を起こし、引き起こされたエネルギーは甚だしく強く尽きることは無い。ここに描かれたのは火消の心意気と矜持の物語。そして親と子、夫と妻、師弟そして友のお互いを思いやる人情の物語だ。読み始めたが最後、頁をめくる手を止めることはできない。一気にクライマックスまで読み進め、昂奮し感激し涙した。今村翔吾氏は確かに鉱脈を掘り当てたと言ってよい。こいつぁ、掛け値無しにおもしろい時代小説だ。
読了日:05月18日 著者:今村翔吾


京都下鴨なぞとき写真帖2 葵祭の車争い (PHP文芸文庫)京都下鴨なぞとき写真帖2 葵祭の車争い (PHP文芸文庫)感想
京都のうまいもんと名所案内が人情噺を交えて読める。茗荷を食べると物忘れするといわれるようになった由縁や和ろうそくと洋ろうそくの違いなど、ちょっとした物知りになれるのもありがたい。「鉄板洋食 鐵」のハラミステーキランチ、「グリル富久屋」のフクヤライス、「うどんや ぼの」のカルボナーラうどん、「松葉」のにしんそば、うまそうです。先週京都に行く前に本書を読んでいたら「ホホホ座」から「恵分社一乗寺店」を廻って「うどんや ぼの」に行ったに違いない。しまった。もう少し早く読んでいればなぁ・・・。
読了日:05月17日 著者:柏井壽


火喰鳥 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)火喰鳥 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)感想
襤褸を着てても心は錦。「羽州ぼろ鳶組」との蔑称はいつしか賞賛の色を帯びはじめる。時の老中田沼意次火付盗賊改方長谷川平蔵宣雄、役者はそろった。火事と喧嘩は江戸の華。命を救うが火消の本分。新庄藩火消ぼろ鳶組頭取松永源吾久哥、人呼んで「火喰鳥」の心は熱く、風読み加持星十郞、新庄の麒麟児鳥越新之助、壊し手組頭寅次郎、纏番組頭彦弥と多士済々の心に火をつける。ぼろ鳶組の面々の八面六臂獅子奮迅の大活躍は読者の心にも火をつけずにおかない。ぼろ鳶組よ、存分に火を喰え! 昂奮必至、滅法界おもしろい時代小説だ。
読了日:05月11日 著者:今村 翔吾


室町無頼(下) (新潮文庫)室町無頼(下) (新潮文庫)感想
本作は第156回直木賞の候補に挙がった。恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』が賞に輝いた回である。その選考に異議はないが、選者の中にもっと土一揆に立ち上がった民衆視点での社会問題に焦点を当てるべきだったかのような評価があったのは残念である。本作で垣根氏が書きたかったのは、救いようのない時代にあって「無頼」の気骨で時代の流れに抗った痛快さであっただろう。暗黒面を描く社会小説ではなく痛快無比剣豪小説で良いではないか。本書が『蜜蜂と遠雷』と並んで直木賞同時受賞であっても良かったのではないかと思うのは私だけではないだろう。
読了日:05月08日 著者:垣根 涼介


室町無頼(上) (新潮文庫)室町無頼(上) (新潮文庫)感想
「無頼」とは何か。所謂「ごろつき」ということか。本書の登場人物たちにそれはあたらない。もっと品格があり、己に対する規範を持っている。ではもう少し格好良く「伝統的な価値観や規制を無視するニヒリズム」ととらえるか。それも少々ちがう。無頼派を気取った太宰のような弱いものではない。室町中期は、貨幣経済が発達し、持てる者と持たざる者の格差を広げ、それに幕府が何の手も打たない状況の中で、やむなく体制秩序の枠を外れ、法も掟も無視して、何にも頼らずに自力で道を切り開いていく野武士的な生き方が本書の「無頼」であろう。
読了日:05月08日 著者:垣根 涼介


日本の朝ごはん (新潮文庫)日本の朝ごはん (新潮文庫)感想
平成から令和に変わる夜、本書の最初に紹介された石川県珠洲市「さか本」に泊まった。もともと単行本が上梓されたのは平成6年1月なのでもう25年も前のことになる。二年半前に本書に出会い、それ以来、泊まってみたくてたまらなかった。本書が書かれた当時から「さか本」は変わっているのかいないのか、あるいはさらに進化しているのだろうか、ワクワクした。大切な部分はおそらくは変わっていない。夕食も朝食も滋味に富み大満足であった。躰が喜んでいるのがわかる。巻末に志水辰夫氏の「朝めしまえ」と題した文章がある。これも贅沢。
読了日:05月01日 著者:向笠 千恵子

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