『カール・エビス教授のあやかし京都見聞録』(柏井壽・著/小学館文庫)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。
「鴨川食堂」著者が贈る新シリーズ!
京都にまつわる不思議な体験、してみませんか。英国人ミステリー作家のカール・エビスは、京都にある名門・京洛大学に招かれ、教鞭を執っている。次回作執筆の参考にと、講義がない日には助手の九条葵と京都の街を練り歩き、日々創作の種を捜している。まだ京都へ来てから日が浅いカールを驚かすのは、京都ならではの不可思議な出来事だ。時間や空間の概念などないかのように、安土桃山時代の逸話〈宗旦狐〉の母狐が化けた女性の姿を見かけたり、〈六道の辻〉の案内人である年齢不詳の老婆と出会ったり。京都人らしい、気遣いができるも小言を言わねば気が済まない性格の葵に振り回されながら、行く先々で、カールは科学で解明できない出来事に遭遇する。
【編集担当からのおすすめ情報】連続ドラマ化もされたベストセラー「鴨川食堂」の著者・柏井壽が贈る、新シリーズ!『鴨川食堂まんぷく』と二冊同時刊行!
内容(「BOOK」データベースより) 英国人ミステリー作家のカール・エビスは京都の京洛大学に招かれ、日本文学の教鞭を執っている。その傍ら、次回作執筆の取材と称して、助手を務める九条葵と京都の街を練り歩く毎日だ。日本通だと思っていたカールだが、京都では驚いてばかりいる。あとをつけていた女性が突然消えてしまったり、あの世とこの世の境目といわれる場所では、霊に憑かれてしまったり。かと思えば、なんでも癒すお地蔵様を洗うと、霊が消えてふっと肩が軽くなる。この世には、目に見えないものや理屈の通らないことがある―。ベストセラー『鴨川食堂』の著者が贈る、京都発新シリーズ!
新しいシリーズ登場である。柏井壽先生の御本は京都の魅力についてのエッセイ、全国各地の宿、食べものを題材にした旅行記、そしてベストセラーとなっている『鴨川食堂』シリーズと柏井圭一郎名義のものを含めかれこれ二十冊以上読んできた。
「あやかし」とは何か。大辞林によると次のように書いてある。
あやかし
① 船が難破する時、海上に現れるという怪物。 「いかに武蔵殿。この御船には-が憑いて候/謡曲・船弁慶」
② 不思議なこと。怪しいこと。また、妖怪。 「太鼓持に貧乏神の-が付いたと観念すべし/浮世草子・禁短気」
③ ばか者。愚か者。 〔日葡〕
④ コバンザメの異名。 〔和訓栞〕
⑤ 能面の一。亡霊や怨霊おんりようなどに用いる男面。
本書でいう「あやかし」はどうやら「不思議なこと。怪しいこと。」と解釈して良いのだろう。「理屈や科学では説明できないことがら」と言えば良いのかもしれない。京都にはそれこそ八世紀に京の都となる以前から今日に至るまで連綿として文化、芸術、工芸、信仰、遊び事、争いごとなどなど、人の営みの歴史文化の屍が累々と積み重なっている。現代にあってもそこかしこに古さの残る京の街には、ちょっとしたきっかけで怪しい世界に足を踏み入れてしまいそうな危うさがある。人が目に映ることで認識している現実世界と隣りあわせにもののけの住む異相世界があり、ふと何かの弾みに人が迷い込んでしまう怖さのようなものがある。蘆屋道満、安倍晴明の陰陽師伝説(葛の葉)、横笛伝説、おかめ伝説、小野小町を慕った深草少将の悲恋伝説、現代を歩きながらその昔に思いをはせる愉しみは京都ならではのものだろう。そこかしこにちりばめられたグルメ情報も楽しい。
Googleマップを首っ引きでチェックしたリストは次のとおり。『出町ふたば』『粟田山荘』『一保堂』などいくつか既にひいきにしている店もあるがまだまだである。京都通への道は限りなく遠い。
『出町ふたば』 豆餅
『鍵善』 干菓子
『満寿形屋』 鯖寿司
『末富』 わらび餅
『相国寺 宗旦稲荷社』
人形浄瑠璃 『葛の葉』
『粟田山荘』
『鐵輪(かなわ)の井』 能楽『鉄輪』
『紫野源水』 裏桜
『城南宮』
『西福寺』
『六波羅蜜寺』
『寿延寺 洗い地蔵』
『グリル富久屋』 フクヤライス
『比良山荘』 鮎
『立本寺』 幽霊子育飴伝説
『平野屋』 鮎 志んこ餅
『祇王寺』
『滝口寺』 横笛伝説
『一保堂』 お茶
『村上開新堂』 洋菓子
『紫野源水』 練り切り(桔梗)
『石像寺 釘抜地蔵』
『キッチンパパ』 ハンバーグと海老フライのセット
『すや』(岐阜中津川) 栗きんとん
『欣浄寺』
『清和荘』 松花堂弁当
『鍵善良房』 野分
カール・エビス教授の行きつけの店「先斗町<小料理フミ>」が気になり調べてみた。同名の店は実在しないようである。先斗町歌舞練場の近くに『富美屋』という川床もやる京料理の店があるが、小説とは店の雰囲気が違うように思う。小説上、小料理屋の女将は増田フミさんと言う。ならばおばんざい料理店『ますだ』かとも思う。『ますだ』には確かL字型のカウンターがあるが、カール・エビス教授がいつも座るという右奥の端っこの席の前におでん鍋はなかったように記憶している。さてさて実在の店でないとしたら、柏井先生はどこの店をモデルにしていらっしゃるのか。今度、お目にかかったら訊いてみなければなるまい。〆にキツネ丼(薄味で煮ふくめた油揚げと九条ネギを載せ、粉山椒を振った丼)を出してくれる店なんて、グッと来ますからね。
また寺町二条にあるという<竹林洞書房>はお茶の『一保堂』、洋菓子の『村上開新堂』の位置からして『三月書房』をモデルにしているのではないかと思われる。『三月書房』は私も好きな書店である。