佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『酒呑みに与ふる書』(編者:キノブックス編集部/株式会社キノブックス)

『酒呑みに与ふる書』(編者:キノブックス編集部/株式会社キノブックス)を読みました。

 まずは出版社の紹介文と収録作品リストを引きます。

「酔うことだ、絶えず、酔うことだ!」「酔うことだ、絶えず、酔うことだ!」「よく呑んで、よく歌って、そしていつでも面白くあること」「おや、昼酒ですか、結構ですなぁ」
酒にまつわるエッセイ、詩歌、マンガのアンソロジー決定版!大伴旅人芭蕉から夏目漱石古井由吉村上春樹、そしてボードレールまで、豪華作家陣による陶酔と覚醒の45篇を収録。

【収録作品】

ステファヌ・マラルメ(渡邊守章訳)「祝盃」

村上春樹「おいしいカクテルの作り方」

川上未映子「オールフリーで気分は酒豪」

角田光代「酔っぱらい電車」

小池真理子「時間の感覚変える「酔い」」

いしいしんじ「ビール」

田村隆一冬物語

木山捷平「妻と夫との会話」

中島らも「飲酒自殺の手引き1」

谷崎潤一郎「酒」

森澄雄「晝酒の鬼の踊りし曼珠沙華

岡田育「昼下がりの鮨屋で、突然に」

安西水丸ぐい呑みを楽しみつつ酒飲みの夜は更けていく」

草野心平「酒と盃」

菊地信義「夜のショットグラス」

夏目漱石「酒の燗此頃春の寒き哉」

室生犀星「酒場」

菊地成孔「親愛なる君たちへ」

藤子不二雄A「チューダー・パーティ」

内田樹「個食のしあわせ」

鷲田清一「一度は酒にもソロをとらせてやりたいのだけれど」

シャルル・ボードレール(井上究一郎訳)「酔うことだ(Enivrez-vous)」

堀口大學「詩の味・酒の味」

江戸川乱歩「酒とドキドキ」

佐藤春夫「酒把りて――把酒――」

井伏鱒二「逸題」

吉行淳之介「葡萄酒とみそ汁」

開高健「淡麗という酒品」

伊集院静「大人はなぜ酒を飲むのか」

北方謙三「ただウイスキーだと思うなよ」

松浦寿輝「深夜の儀式」

古井由吉「はじめての酒」

島田雅彦「アルコール依存」

吉井勇「酒ほがひ」

折口信夫口訳「太宰ノ帥大伴ノ旅人の作つた酒を讃へた歌十三首」

松尾芭蕉「扇にて酒くむかげやちる桜」

佐伯一麦「こんなにうまい酒は無い」

福田和也「銀座レクイエム――樋口修吉

水上瀧太郎「我が飲屋」

吉田健一「酒の味その他」

丸谷才一「幸福の文学吉田健一『酒肴酒』」

中村稔「食卓の愉しみについて」

大岡信「微醺詩」

筒井康隆「あるいは酒でいっぱいの海」

ポール・ヴァレリー(中井久夫訳)「失はれた酒」

 

 

 

 五月に京都で書店めぐりをしたときに買った一冊。上京区俵屋町の「誠光社」であった。装丁はあまり好きではない。表紙にごちゃごちゃと活字が踊っているしその書体も陳腐だ。美しくないのである。しかし、このアンソロジーに収められている作品の作者を見るや、これほどの豪華作家陣を目にして買わずにはいられないではないか。

 安西水丸氏がいう「いずれにしても、酒に関しては飲む人として生きるか、飲まない人で生きるか、はっきりしておいた方がいい。何ごとにおいても中途半端はよくない。また、酒を飲んだ後に、喫茶店でコーヒー飲んで行こうなどという者とはいっしょに飲まない方がいい」は至言.

 菊地成孔氏の『親愛なる君たちへ』の冒頭に書いてある「♬ Katy Perry "Last Friday Night (T.G.I.F.)"を聴いてみた。Good! 


Katy Perry - Last Friday Night (T.G.I.F.)

 

 堀口大學曰く「酒の一番うまいのは、朝湯のあとの小酌だ」。御意<(_ _)>。

 井伏鱒二が酒を飲み『逸題』を詠んだ「新橋よしの屋」をWebで探してみた。小林秀雄久保田万太郎中原中也大岡昇平吉田健一なども通っていた店らしいが、今はもう無いようである。”新橋一丁目11”にあったようだ。新橋駅銀座口前です。井伏鱒二の独り酒が目に浮かぶ。カッコイイ。

 開高健が出会ったという日本酒の名作がどの蔵の酒か知りたい。ひとつは新潟県、もう一つは山形県だという。いずれも硬質陶器の中で数年寝かせた古酒だそうである。「日本酒が一年以上たつとダメになるという酒造家と酒徒両者の思い込みを鋭く批判した」坂口謹一郎博士の例を引き、奥深くたっぷりと正しい涼暗のなかで眠った酒の風格に論究している。慧眼の士である。

 伊集院静氏は公園のベンチでもビルとビルの間でもよく寝たという。私と同じ穴の狢だといえば叱られるだろうか。「私が酒を覚えていたことで一番助かったのは、どうしようもない辛苦を味わわなくてはならなかった時、酒で救われたことだ。眠れない夜もどうにか横になれた。どんな生き方をしても人間には必ず苦節が一、二度むこうからやってくる。それがないのは人生ではない。人間は強くて、弱い生きものだ。そんな時、酒は友となる」と結びの記述。まったく同感である。

  水上瀧太郎氏のエッセイ『我が飲屋』に書かれた店に行ってみたいが、戦前のことでもあり、もう叶わない。銀座「岡田」は今もあるようだ。行ってみたい。

 酒と食に関するエッセイと言えば、誰をおいても吉田健一だろう。『酒の味その他』はまさに味わい深い文章である。また吉田の文章はその後に収められている丸谷才一『幸福の文学 吉田健一「酒肴酒」』においてべた褒めである。『酒肴酒』は読書メーターに読みたい本として登録している。ついでに『私の食物誌』と丸谷才一『食通しったかぶり』も登録する。詩人である中村稔氏の愛読書だそうだ。

 筒井康隆氏の短編『あるいは酒でいっぱいの海』は笑える。酒飲みのくだらない夢物語と笑えるところが良い。