佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『遠い山なみの光』(カズオ・イシグロ:著/小野寺健:訳/ハヤカワepi文庫)

遠い山なみの光』(カズオ・イシグロ:著/小野寺健:訳/ハヤカワepi文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

故国を去り英国に住む悦子は、娘の自殺に直面し、喪失感の中で自らの来し方に想いを馳せる。戦後まもない長崎で、悦子はある母娘に出会った。あてにならぬ男に未来を託そうとする母親と、不気味な幻影に怯える娘は、悦子の不安をかきたてた。だが、あの頃は誰もが傷つき、何とか立ち上がろうと懸命だったのだ。淡く微かな光を求めて生きる人々の姿を端正に描くデビュー作。王立文学協会賞受賞作。

 

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫)

 

 

 

 ラストシーンでの悦子とニキの会話に長崎に住んでいた頃の港に行った日のことが語られる。「あの時は景子も幸せだったのよ」と。確かに物語の中盤にフェリーで稲佐へ渡ったシーンがあるが、その時は景子は未だ悦子のお腹の中だったはずとどんでん返しに気づく。ということは想い出として語られる佐知子と万里子親子は悦子の作り話なのか。あるいは悦子は狂いかけているのか。佐知子と万里子親子と悦子と景子親子の不思議な共通点が佐知子と悦子、そして万里子と景子が実は同一人物なのではないかと暗示する。悦子が縄を持って万里子と話すシーンが繰り返されるなど、不気味でもある。なんだか落ち着かない不穏な余韻を残す小説。ブンガク的価値はあるのかもしれないが、私の好みではない。以前に読んだ『日の名残り』は好きなのだが・・・

 

 

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)