佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『犬の力 上・下』(ドン・ウィンズロウ:著/東江一紀:訳/角川文庫)

『犬の力』(ドン・ウィンズロウ:著/東江一紀:訳/角川文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

【上巻】メキシコの麻薬撲滅に取り憑かれたDEAの捜査官アート・ケラー。叔父が築くラテンアメリカの麻薬カルテルの後継バレーラ兄弟。高級娼婦への道を歩む美貌の不良学生ノーラに、やがて無慈悲な殺し屋となるヘルズ・キッチン育ちの若者カラン。彼らが好むと好まざるとにかかわらず放り込まれるのは、30年に及ぶ壮絶な麻薬戦争。米国政府、麻薬カルテル、マフィアら様々な組織の思惑が交錯し、物語は疾走を始める―。

【下巻】熾烈を極める麻薬戦争。もはや正義は存在せず、怨念と年月だけが積み重なる。叔父の権力が弱まる中でバレーラ兄弟は麻薬カルテルの頂点へと危険な階段を上がり、カランもその一役を担う。アート・ケラーはアダン・バレーラの愛人となったノーラと接触バレーラ兄弟との因縁に終止符を打つチャンスをうかがう。血塗られた抗争の果てに微笑むのは誰か―。稀代の物語作家ウィンズロウ、面目躍如の傑作長編。

 

犬の力 上 (角川文庫)

犬の力 上 (角川文庫)

 
犬の力 下 (角川文庫)

犬の力 下 (角川文庫)

 

 

ドン・ウィンズロウは私が好きで読み続けてきた作家である。トレヴェニアン名義で書かれた『シブミ』『夢果つる街』、『ストリート・キッズ』に始まるニール・ケアリーシリーズ五巻をそれこそワクワクしながら読んできた。

 本書の上巻574P、下巻467Pの量感、物語の始まりから最後まで息をつかせない疾走感、すごいというしかない。「このミステリーがすごい! 2010年版 海外編」(宝島社)で第一位に輝いたのも肯けようというもの。ウィンズロウについては7月『ザ・ボーダー』  が”ハーパーBOOKS”から出版されベストセラーとなっている。『犬の力』、『ザ・カルテル』、そして『ザ・ボーダー』と三部作を成す。実は私、『犬の力』をずいぶん前に買い置き、本棚で積読本にしておりました。これはもうついにこの三部作を一気に読むべき時が来たのだと感じ、それぞれのボリュームに若干恐れをなしながら読み始めた。 
 読み出したらもう停まらない。これは本当にフィクションなのか? アメリカと中南米にわたる麻薬戦争。この本の臨場感といったらどうだ。現実にもこんなことはあるんじゃないか? 実在の人物や事件をベースに書いたのかと思うほど物語がリアルに迫ってくる。ケラーが正義のために為したことが殺しと復讐の連鎖を生む。赤ん坊が母親の腕の中で死んでいる姿、母が上に子が下に、その姿を常に思い起こす罪の意識こそがケラーの背負う十字架だ。

(小春日和の宮津天橋立を望むホテルの一室にて)