佐々陽太朗の日記

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『ザ・カルテル The Cartel 上』(ドン・ウィンズロウ:著/峯村利哉:訳/角川文庫)

『ザ・カルテル The Cartel 上』(ドン・ウィンズロウ:著/峯村利哉:訳/角川文庫)を読みました。

 本来なら下巻まで読んでから読後感など書くところだが、何しろ上巻だけで632Pという文字とおり圧巻の作品である。下巻を読み終えるのがいつになるかわからない。読み終えて感じていたこともその頃には記憶が薄れてしまいそうである。一旦上巻のみで記録を残す。

 まずは出版社の紹介文、本書に寄せられた各氏、各メディアの声を引きます。

 麻薬王アダン・バレーラが脱獄した。30年にわたる血と暴力の果てにもぎとった静寂は束の間、身を潜めるDEA捜査官アート・ケラーの首には法外な賞金がかけられた。王座に返り咲いた麻薬王は、血腥い抗争を続けるカルテルをまとめあげるべく動きはじめる。一方、アメリカもバレーラを徹底撲滅すべく精鋭部隊を送り込み、壮絶な闘いの幕が上がる――数奇な運命に導かれた2人の宿命の対決、再び。『犬の力』、待望の続篇。


【『ザ・カルテル』に寄せられた絶賛の声】


 ドン・ウィンズロウの『犬の力』と『ザ・カルテル』に、わたしはすっかり魅了されてしまった。これほどまでに心を動かされるエンターテインメントは、ほかに存在しえないだろう。――スティーヴン・キング

 ドン・ウィンズロウは『ザ・カルテル』で、自著の最長記録を塗り替え、新たな最高傑作を生み出した。手に汗握る緊張感、遠慮も容赦もない描写、生々しい雰囲気、驚天動地の筋書き、心の奥底に刻み込まれる読後感。この作品は麻薬戦争ジャンルの『戦争と平和』だ。――ジェイムズ・エルロイ

『ザ・カルテル』は思わず引き込まれる第一級のミステリー作品だ。しかし同時にウィンズロウは、われわれの世界がはらむ危険について、世界を取り巻く複雑な事情について、辛辣な警鐘を鳴らすことも忘れていない。優れた作家は啓発と娯楽を両立させられる。そして、ウィンズロウのこの資質は、DNAレベルで組み込まれている。『ザ・カルテル』は彼の匠の技を再確認できる一作と言っていい。――マイクル・コナリー

 ほとんどけちのつけようがない『犬の力』のあとに、ウィンズロウはまたぞろ見事な作品を書きあげてしまった。『ザ・カルテル』を続編と評するのは正しくない。『犬の力』と『ザ・カルテル』は、ふたつでひとつの無垢の金塊をなしているのだ。――リー・チャイルド

『ザ・カルテル』の読後感は、〝鳩尾への一発〟という表現がよく似合う。スケールが大きく、暴力に満ちあふれ、きわめて娯楽性が高いドン・ウィンズロウ最新の野心作は、絶対の必読書だ。――ハーラン・コーベン

 ウィンズロウの手になる麻薬戦争版『ゴッドファーザー』……壮大なスケールで描かれる極上の犯罪絵巻……間違いなく彼の最高傑作(マグヌム・オプス)……ドン・ウィンズロウにとってのメキシコ麻薬戦争は、ジェイムズ・エルロイにとってのLA暗黒街だ。――《ニューヨーク・タイムズ

 ジャネット・マスリン国境の南で繰り広げられる勇猛な英雄譚は、21世紀の『ゴッドファーザー』と呼ぶにふさわしい。前作の『犬の力』を知らずとも、『ザ・カルテル』の世界にどっぷり浸かることは可能だが、ぜひとも事前の一読をお薦めする。いや、ウィンズロウの作品なら、どれを手に取っても損はない。なにしろ彼は、地球上で一、二を争うミステリー作家なのだから。――《エスクァイア》ベンジャミン・パーシー


著者について

 

ドン・ウィンズロウ

ニューヨークをはじめとする全米各地や、ロンドン、アムステルダムで探偵として働いた経歴の持ち主。ニューヨークで生まれ、現在はサンディエゴに在住。

 

峯村利哉(みねむら・としや)

1965年生まれ。翻訳家。青山学院大学国際政治経済学部国際政治学科卒。訳書にキャロル・ルーミス『完全読解伝説の投資家バフェットの教え』、ジョセフ・E・スティグリッツ『世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠』、ロン・ラッシュ『セリーナ』、デイヴィッドハルバースタム『ザ・フィフティーズ─1950年代アメリカの光と影』(1~3)など。共訳に、英「エコノミスト」編集部『2050年の世界』などがある。

 

 

ザ・カルテル (上) (角川文庫)

ザ・カルテル (上) (角川文庫)

 

 

 

”悪魔は天使の羽を生やして現れる” この物語は陸続きのメキシコから国境を越えてアメリカに流れ込む悪魔の粉を巡る物語である。流れ込むといっても自然に入ってくるわけではない。命をかけて血の代償と共に入り込むのだ。そうして得られる対価はドルだ。前作『犬の力』で一匹狼のDEA(アメリカ麻薬取締局)捜査官、アート・ケラーは悪魔の粉の流入を断つためメキシコの麻薬カルテルと壮絶な戦いを繰り広げた。一見それは持ち込もうとするメキシコ(麻薬カルテル)とアメリカの国境を挟んだ攻防、いわば麻薬との戦争である。持ち込もうとする南米を叩き潰せば解決するように見える。しかし南米の麻薬問題は実は南米ではなく北米の問題なのだ。南米の悪を駆除しても、また新たなプレーヤーが登場し参戦するだけだ。買い手なくして売り手なし。問題は北米にある麻薬に対する飽くなき欲望だ。そしてその欲望はとてつもなく大きく、金に糸目を付けない。快楽(薬)への欲望と富への欲望(貧困)は人の愚かさの典型だ。人は欲望によって怪物にも悪魔にもなる。

 アメリカはハイになるために隣人に血の犠牲を強いる社会。その犠牲を金によって贖おうとはするが、そんなものは隣人にとって毒にしかならない。アメリカは理想を語るが、理想を手にしてはいない。決してお手本になどなるものではない。反面教師としての価値しかないと思える。

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