佐々陽太朗の日記

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『ザ・カルテル The Cartel 下』(ドン・ウィンズロウ:著/峯村利哉:訳/角川文庫)

『ザ・カルテル The Cartel 下』(ドン・ウィンズロウ:著/峯村利哉:訳/角川文庫)を読みました。

 出版社の紹介文を引きます。

 捜査陣の中に、裏切り者がいる。選び抜かれたメンバーの誰が? 密かに調査を進めたケラーは、驚愕の事実に対峙する。そんな中、バレーラが次なる狙いと定めたシウダドフアレスでは、対立する勢力が衝突し、狂気と混沌が街を支配していた。家族が引き裂かれ、命と尊厳が蹂躙される。この戦争は、いったい誰のためのものなのか。圧倒的な怒りの熱量で、読む者を容赦なく打ちのめす。21世紀クライム・サーガの最高傑作。

 

ザ・カルテル (下) (角川文庫)

ザ・カルテル (下) (角川文庫)

 

 

【『ザ・カルテル』に寄せられた絶賛の声】

『ザ・カルテル』はメキシコ麻薬戦争を舞台とする『ゲーム・オブ・スローンズ』だ。いくつものパートが複雑に絡み合う血塗られた叙事詩は、不都合な現実を白日の下にさらしている。違法薬物に対するアメリカ人の飽くなき欲望が、南の隣国に混沌をもたらし、米国内の政治文化と犯罪風土をも悪化させてきたと。――《ローリング・ストーン》ウィル・デイナ

 

過去15年で指折りの野心的なクライムノベルだ。『ザ・カルテル』は21世紀を代表する傑作であり続けるだろう。――《ブックリスト》ビル・オット

 

『ザ・カルテル』はフィクションでありながら、太陽の下で幅をきかせる悪夢の世界について、価値の高い情報を提供してくれる。――《NPRブックス》アラン・チューズ

 

『ザ・カルテル』は綿密な取材と卓越した人物造形を通じて、腐敗はびこる麻薬戦争を血なまぐさい残忍なオペラに変貌させている。――HBO『トゥルー・ディテクティブ』制作者ニック・ピゾラット

 

新たな千年紀を背負って立つ犯罪大河小説(クライム・サーガ)……現実の暴露と周知を行う『ザ・カルテル』は、入念に築きあげられた筋立てと、深みのある繊細な人物描写と、小気味よい会話に支えられている。注目すべきは、ドン・ウィンズロウ語り部としての技量だ。――《アリゾナ・リパブリック》ロバート・アングレン

 

ウィンズロウはメキシコ・アメリカ国境沿いの混沌と暴力を、怖いもの知らずの筆致で年代記に仕立て上げた。『ザ・カルテル』は麻薬戦争版の『戦争と平和』になりうる。――《メンズ・ジャーナル》エリック・ヘデガード

 

ウィンズロウはこの10年間に、読者の感情を揺り動かすふたつの作品を発表した。『犬の力』と、壮大な叙事詩に決着をつけるこの『ザ・カルテル』だ。速射を彷彿させるストーリー展開は、AK47から放たれた銃弾のごとく読者を貫くだろう。――《ロサンゼルス・タイムズ》アイヴィー・ポコーダ

 

正義の怒りがハイオクの燃料となって、麻薬カルテルと取締当局の物語をめらめらと燃えあがらせている。黙示録を思わせる終末感は、読む者を中毒に陥れるだろう。――《エンターテインメント・ウィークリー》クラーク・コリス

 

 上巻632P、下巻580P、ものすごく長い小説です。さらにこの小説が『犬の力』(上巻574P、下巻467P)の続編であること、またさらにこの小説の続編として『ザ・ボーダー』(上巻765P、下巻799P)があることから、この三部作は一つの作品と見なすべきであり、そうすると累算3,790Pにも及ぶ超長編小説だといえる。

 さて、本書を読んであらためて感じたのはアメリカの罪深さである。これまでぼーっと生きてきた私にとって、アメリカはどちらかと言えば信頼出来る国である。もちろん何の疑いもなくそう思うほど私もバカではない。しかしアメリカの語る「自由」「正義」「民主主義」というプロパガンダは私に対してかなり功を奏しており、アメリカの闇にあまり目を向けることがないといえる。しかしアメリカがグアテマラにおいて、ベトナムにおいて、イラクにおいて何をしてきたか。いや、そもそも日本の長崎、広島への原爆、東京その他都市への大空襲をみてもアメリカに対する信頼など幻想にすぎないのではないか。少なくとも半分はアメリカに対する疑いの目を持つべきであろう。

 アメリカの最長の戦争はベトナムでもアフガニスタンでもない。麻薬との戦争だ。そしてアメリカはこの戦争に絶対に勝利できない。なぜならアメリカ自身が麻薬を求めているのだから。アメリカは商品を買っておきながら、商品を売るなとケチを付けているだけ。その意味でこの戦争は馬鹿げており、救いようがない。

 もちろん本書はフィクションだ。しかし本書は麻薬戦争の本質を突いており、事実に増して麻薬戦争の闇(=アメリカ社会の闇、文明社会の闇)を雄弁かつ的確に描いているといえる。

 復讐が復讐を生む連鎖はもう止められない。金と快楽を貪る欲の泥沼に底はない。物語において高潔の士・マリソルが襲われるのは必然の情勢であった。しかしマリソルは引かなかった。むしろ毅然と立ち向かっていった。命を優先してもだれも責めはしない。それを責めるとすれば自分自身だけである。命より大切なものがある。それは自分は卑劣な者に絶対に屈しないという矜持。そして自分の愛する者を、悪に染まらず無垢なままでいる者をただ守りたいと思う気持ちだ。たとえ肉体は殺せても、何ものにも屈しない強い意志があったことを消し去ることはできない。そう信じることこそが唯一の救いだ。

 凄い小説です。続編『ザ・ボーダー』を読もう。しかし、それを読み始める前に暫し休憩が必要だ。それほどこの三部作を読むのはしんどい。ずしっと身に応える。

 余談だが、本書第4部「スペードのジャックとセータ隊」のエピローグはザ・バンド・ペリーの曲 "If I Die Young" の歌詞を引いている。

涙は集めて、

ポケットにしまっとく

 YouTube で聴こう。なかなか良い曲です。


The Band Perry - If I Die Young (Official Video)