佐々陽太朗の日記

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『依頼人は死んだ』(若竹七海・著/文春文庫)

依頼人は死んだ』(若竹七海・著/文春文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

「わたしの調査に手加減はない」女探偵・葉村晶のもとに持ち込まれる事件の真相は、いつも少し切なく、こわい。
仕事はできるが不運すぎる女探偵・葉村晶シリーズ第一弾!

 もうすぐ29歳になる葉村晶は、フリーの調査員として長谷川探偵調査所と契約している。
 念願の詩集を出版し順風満帆だった婚約者の突然の自殺に苦しむ相場みのりと同居することになった晶だが。(「詩人の死」)
 書誌学のレポートを代筆してほしいという依頼で画家の森川早順について調べることになった晶は、その異様な画風に興味を持つ。(「鉄格子の女」)
 健診を受けていないのに「あなたはガンです」という通知が送られてきたという佐藤まどか。ところが依頼を受けた直後、彼女が死んでしまう。(「依頼人は死んだ」)
構成の妙、トリッキーなエンディングが鮮やかな連作短篇集。
解説・重里徹也

 

依頼人は死んだ (文春文庫)

依頼人は死んだ (文春文庫)

 

 

 まず上の紹介文に謳っている「仕事はできるが不運すぎる女探偵・葉村晶シリーズ第一弾!」という文言について、ひと言書いておかねばならない。これはあくまで文春の発刊するシリーズの第一弾という意味であって、正確には葉村晶シリーズには本作以前にもう一巻『プレゼント』(中公文庫)がある。Wikipedia に記載されている既刊の葉村晶シリーズは次のとおりだ。

  1. プレゼント(1996年5月 中央公論新社 / 1998年12月 中公文庫)
  2. 依頼人は死んだ(2000年5月 文藝春秋 / 2003年6月 文春文庫)
  3. 悪いうさぎ(2001年10月 文藝春秋 / 2004年7月 文春文庫)
  4. さよならの手口(2014年11月 文春文庫)
  5. 静かな炎天(2016年8月 文春文庫)
  6. 錆びた滑車(2018年8月 文春文庫)
  7. 不穏な眠り(2019年12月 文春文庫)

 <番外>暗い越流(2014年3月 光文社 / 2016年10月 光文社文庫
  収録作品のうち「蠅男」・「道楽者の金庫」が葉村晶シリーズ

 

 かく言う私自身、昨年末に本屋で葉村晶シリーズに目をとめ、第一作から前作を通読しようと何の疑いを持つことなく本作『依頼人は死んだ』から最新作『不穏な眠り』をまとめ買いして、さてさて話題の人気シリーズの始まりはどんなだろうと読み始めたのだ。しかし本作を読んでいる途中で、Web上の記事などをチェックしていて買った覚えのない『プレゼント』という本の存在に気が付き、しかもそれこそが実はシリーズ第一弾なのだと知り愕然としたのである。どうせならはじめから読みたいではないか。しかし読みかけたミステリー小説を途中でやめるのは辛い。もう物語に引き込まれており、先の展開と結末が気になって仕方が無いのだ。当然のこととして『プレゼント』を慌てて注文したが届くのはおそらく二日後になる。その間の禁断症状に堪えられようか、いやそのようなことが出来ようはずがないとの結論に達し本作を読み切った。それにしても、出版社には出版社の事情があるのだろうが、こうしたことは良くない。と、一応は苦言を呈しておく。

 次に今話題になっているのはNHK総合での葉村晶シリーズがドラマ化されるということ。スタートは今年1月24日。題名は『ドラマ10「ハナムラアキラ~世界で最も不運な探偵~』で主演はシシド・カフカらしい。私が本シリーズをまとめ買いしたのも、ドラマ化を機に本屋の目立つところに平積みしてあったからである。若竹七海氏の本は2014年の6月に『サンタクロースのせいにしよう』(集英社文庫)を読んでたいへん気に入っていた。TVドラマ化されるということはおもしろいという定評のある証拠。これは読まねばなるまい、となったのである。

http://jhon-wells.hatenablog.com/entry/2014/06/08/215600 

 さて本作を読んだ感想である。意外だったのは本書のテイストである。イヤミスといって良いほどブラックで後味が悪い話が続く。一話読み「?」、二話読み「??」という感じだったが不思議と本を投げ出したくはならない。むしろ作品世界に引き込まれていく。そしていつからか葉村晶を応援していた。葉村晶のどこが良いのか。仕事に手を抜かずきちっとやりきる。口が悪く耳の痛いことをはっきり言う。しかし口は堅い。つまり仕事が出来る女探偵なのだ。彼女のモットーは「私の調査に手加減はない」。そんな彼女に次々と襲いかかる不運。人は彼女をして「不運すぎる女探偵」と呼ぶ。しかしそんな状況への彼女の態度は極めてクールでタフ。自分に厳しく他人に甘えることはしない。優しい印象はないけれど人に頼られると突き放せない一面を持つ。自分のスタイルを貫き、一見シニカルでありながら、素顔の彼女はあたたかみがある。ハードボイルド小説好きとして心惹かれる探偵の登場だ。

 本作では20代の彼女も、次作『悪いうさぎ』では30代に、さらに『さよならの手口』では40代になるという。読む順序が逆になってしまった『プレゼント』はもちろんのこと、『悪いうさぎ』以降の葉村晶がどんな不運に見舞われ、どのように生きていくのか、読むのが楽しみである。