佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

ゴラン高原「叫びの谷」

 ゴラン高原は、シリア南西部に位置する岩地の高原で、軍事戦略上の要地である。ヨルダン川流域を見渡せることから、水源確保の意味でも重要な拠点となっている。「水を制する者が中東を制する」といわれるくらい、中東にとって、水は命綱である。
 1967年の第三次中東戦争イスラエルがこの高原を占領し、1973年の第四次中東戦争でシリアが一時的に奪還したが、その後すぐにイスラエルに再占領された。
 現在も緊張関係が続いている。そこに国連が割って入り、停戦監視と両軍の兵力引き離し状況を監視する国連兵力引き離し監視隊(the United Nations Disengagement Observer Force, UNDOF)を設置している。
 このような経緯から、同じ村落が未だ別れたままになっているところがあるそうで、「叫びの谷」と呼ばれる境界付近で、引き離された家族どうしがハンドマイクを手にあらんかぎりの大声で呼んで、相互に安否を確かめあっているようだ。先日、陸上自衛隊員がUNDOFに派遣される壮行会で、UNDOFの活動を紹介するビデオを視てこうした事実を初めて目の当たりにした。平和な日本に住んでいれば、このようなことを知らず、毎日をのほほんと過ごしている。この世は悲しみに満ちている。
 我が国外務省によると、UNDOF設置以来、要員の死亡は43名に上る。どうやらこの中に自衛隊員はいない模様だが、非常に危険な任務であることがわかる。壮行会の席上、派遣隊員の奥様とご子息が、まさに危険な任地に赴こうとするお父さんを誇らしく思いながらも心配そうな眼差しで見やっておられた。胸中察するにあまりある。私も何とか無事に任務を完遂して帰国してくださいと心から念じた。私たちは、こうした献身をほとんど知ることなく過ごしている。しかし、世の中には我が身を危険にさらしても人の役に立とうとする人がいる。そうした人たちの献身のうえに私たちの生活が成り立っている。尊敬し感謝しなければならない。