佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

「知りすぎた女」(ブライアン・フリーマントル著・新潮文庫)を読了

知りすぎた女 (新潮文庫)

知りすぎた女 (新潮文庫)

 読後感は「?」
 ハッキリ云ってイマイチである。
 嘗て無かったことである。私はブライアン・フリーマントルの大ファンである。氏の著作をすべて読んでいるわけではないが、かなり読み込んでいると自負している。冒険小説、スパイ小説、サスペンス、ハードボイルド、ミステリー、エンターテイメント、呼び名はともかくこれらのジャンルで名声を博しているのはフォーサイスフリーマントルであろう。どちらかと云えば私は明らかにフリーマントルに軍配を上げる。それほど氏の小説を高く評価している。既読本を列挙してみると
 黄金をつくる男
 十一月の男
 罠にかけられた男(チャーリー・マフィン シリーズ)
 追いつめられた男(チャーリー・マフィン シリーズ)
 収容所から出された男
 亡命者はモスクワをめざす(チャーリー・マフィン シリーズ)
 名門ホテル乗っ取り工作
 暗殺者を愛した女(チャーリー・マフィン シリーズ)
 スパイよさらば
 クレムリン・キス
 第五の日に帰って行った男
 裏切り
 暗殺者オファレルの原則
 狙撃(チャーリー・マフィン シリーズ)
 十二の秘密指令
 おとり捜査
 嘘に抱かれた女
 報復(チャーリー・マフィン シリーズ)
 猟鬼
 屍泥棒
 流出(チャーリー・マフィン シリーズ)
 英雄
 待たれていた男(チャーリー・マフィン シリーズ)
 城壁に手をかけた男(チャーリー・マフィン シリーズ)
といったところだ。ということは「知りすぎた女」は25冊目ということになる。これまで一度もハズレは無かった。中でも、チャーリー・マフィン・シリーズは、そのどれもが最高の出来である。それだけに、氏の作品に対しイマイチの評価をするのには少なからず抵抗感があるのだが、やはりもう一つ楽しめなかった。
 楽しめなかった理由を考えてみると次のようなことが考えられる。

  1. 物語の主な登場人物、ジョン・カーヴァー、ジェーン・カーヴァー、アリス・ベリングの誰にも感情移入できない。この三人の主人公に惚れ込めないのである。
  2. 悪役に魅力がない。迫力もない。ぞっとする怖さもない。
  3. ジョンの妻(ジェーン・カーヴァー)と愛人(アリス・ベリング)の女性としての感情の機微も描かれているが、正直なところ男の私にはピンとこない。
  4. 最後に意外な事実が用意されてはいるが、それによって物語全体がひっくり返るような「大どんでん返し」ではない。

 本書によって氏は妻と愛人二人の女性の思惑、駆け引きの妙味、意外な展開、結末に用意した痛烈な皮肉を読者に提供したいと考えたのだろうが、そこに至るまでに読者が二人のヒロインに肩入れできなければ、氏の思惑も肩すかしに終わってしまう。ミステリー小説として一応の水準にあるとは思うが、氏に対する期待が大きいだけに残念と云わざるを得ない。